ZOC 香椎かてぃは、キャパシティを超えてどこまでも寄り添う存在に ラディカルなアイドルとしての姿勢を読む

ZOC香椎かてぃ、キャラクター分析

 その取り組みを象徴しているのがスタイルブック『新あいどる聖書』だ。読んで字のごとく、これは香椎かてぃという宗教の教典である。冒頭のページには「信仰承認します」の文字と香椎の捺印が踊る。近年特定の人物やコンテンツを盲目的に肯定する人々を「信者」と呼ぶ風潮が主にインターネット上でみられるが、そうした疑似宗教の垣根をいよいよ飛び越えて、ここまで形式的かつ段階的に自らの信奉者を増やさんとする動きを見せた者は彼女くらいではなかろうか。現在重版を重ねて各地へ送り出されている彼女のバイブルによって、香椎かてぃは着実に布教されている。また、彼女が立ち上げたブランドが冠する「CULT」という単語は、一般的には宗教的な儀式や崇拝の他、流行という意味も持つ。集団を定義づける言葉と身に纏うものを売り出すファッションブランドはとても相性が良い。なぜならそれが一種のユニフォームになるからだ。一方で、ブランドの指針が「何にも囚われず、自由に変化し続けて」(CULT TOKYO公式HPより引用)であることも興味深い。固定化された何かを信仰するのではなく、流動的な教え――言い換えればそれは香椎かてぃそのもの――を信仰する集団なのかもしれない。いわば教条なきカルトである。

 偶像としての彼女はとどまることを知らずに膨れ上がり続ける。するとやはり、先に述べてきた通り、信仰の器に亀裂が入ってくる。数カ月前にTwitterにて吐露された彼女の心情は、とても慢心しきった教祖のようには映らなかった。ひび割れてゆく自身の心身を感じながらも、ダイレクトメッセージを封鎖出来ないという悲痛さ。ひたむきに信仰心の受け皿を全うしようとする姿勢に喉が詰まる。ファンに対し「わたしはあなたの味方です」と言い切った言葉に嘘はなく、だからこそ、キャパシティを超えてどこまでも寄り添おうとする。崇めるのに距離感は関係ないのだと気付かせてくれる。「嘘かどうかわかりやすい距離にいたい」と主張する彼女は、誰よりも近い神さまだ。そしてきっと直接わたしたちの手を取って渋谷の街を案内してくれるのだろう。

■清家咲乃
1996年生まれ。青山学院卒。BURRN!編集部を経て現在はフリーランスのライター/編集者として活動中。ヘヴィミュージックを中心に、ルーツロックからヒップホップまで幅広く好む。『エクストリーム・メタル ディスク・ガイド』などに寄稿。

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