星野源、「折り合い」という言葉と音楽に表れた“今”に対するリアルな思い ソロデビュー10周年SP『ANN』を受けて

星野源「折り合い」に込められたリアルな思い

 この“折る”という字は、心が折れるとか挫折といったマイナスな気分が連想されがちだが、他方で、“折衷”や“折衝”のように二つ以上の物事をつなぎとめる際に使われる字でもある。そして“折り合い”とは、物の本によれば“人と人との関係”、あるいは“互いに譲り合って一致点を見つけること”を意味する。相容れない他者とでも距離を詰め合って、両者の接続を試みようとするときに用いられる言葉だ。

 先日の「おげんさん」についての記事(星野源が貫くミュージシャンとしてのあるべき姿 『おげんさんと(ほぼ)いっしょ』“ばらばら”の世界に向けて)で、彼が2010年に発売した1stアルバムの1曲目である「ばらばら」が、昨今のコロナウイルスによって我々が置かれた状況をまるで予見していたかのようだというような趣旨の話を書いた。個人主義の加速する現代において、世界が“ばらばら”になっていき、さらにウイルスによってもますます散り散りに散った世の中で、これから先の未来で我々に必要とされているのは、それぞれが納得できうる着地点を模索しながら進む、まさに“折り合い”の精神ではないか。「ばらばら」だからこそ「折り合い」が必要なのだ。

星野源 - 折り合い (Official Video)

 コロナ禍の真っ只中で作られた曲であり、そこには彼の“今”に対するリアルな思いが表れている。そして10周年というタイミングでのリリースでもあるため、これまでの10年に区切りをつける意味合いも含まれているかもしれない。いずれにせよ、制作アプローチの大胆な変化からして、長い目で見た彼の活動におけるターニングポイント=“折り目”となることは間違いない。

■荻原 梓
J-POPメインの音楽系フリーライター。クイックジャパン・リアルサウンド・ライブドアニュース・オトトイ・ケティックなどで記事を執筆。
Twitter(@az_ogi)

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