Uru、井上苑子、門脇更紗……カバー動画で認知を広げたシンガーソングライターの才能の行方

 改めて、様々なカバー動画を漁っていたら、「Recommended for you」として、門脇更紗のカバー動画と出会った。2013年1月にYouTubeチャンネルを立ち上げ、ピアノロックバンド、SHE’Sの「Letter」(「あつまれ どうぶつの森 × Nintendo Switch Lite」2020春CM使用曲)やOfficial髭男dism「Tell Me Baby」、北村匠海率いるDISH//の新曲でR&Bナンバー「Shape of Love」などをアコギ の弾き語りでカバーしていた。コメント欄には「声にひと目惚れ」や「心に染みる声」など、「声が好き!」という意見が多いが、彼女の魅力はやはり、花開く直前の蕾のような硬さを残した、少しダークでアンニュイな歌声だろう。

 気になったので詳しく調べてみた。門脇更紗は兵庫県生まれ、現在、20歳のシンガーソングライターだ。10歳からアコギを始め、15歳の時にオリジナル楽曲の制作とライブ活動をスタート。Twitterにアップしていた弾き語り動画が現在のスタッフの目に留まり、2017年に本格的な活動を開始。現代のアーティストらしく、ライブ配信アプリ「MixChannel」でも定期的に配信を行なっており、2017年夏には、前述の井上苑子が主催した『いのうえ夏祭り2017出演権コンテスト』でグランプリを受賞し、特典である野外ライブを行なっている。

 関西を中心にライブ活動を行い、2018年には地元の神戸と東京・渋谷で初ワンマンを開催し、夏には1stアルバム『雨の跡』をリリース。翌年には東阪でアンプを通さない生声ワンマンライブを開催し、2020年3月に配信シングル「東京は」をリリースした。生々しいブレスから始まるフォークバラードで、夢を追って上京した心境を赤裸々に綴っている。新しい生活に対する不安や葛藤、期待や希望が内混ぜになる中で、「東京は」というフレーズに続くのはどんな思いなのか。タイトルを「東京」ではなく「東京は」にした独特の言語感覚も含めて、ぜひMVを見て確かめてみてほしいと思う。

門脇更紗「東京は」Music Video

 さらに彼女は、6月3日に「えのぐ」「Love story」という2018年からすでにライブでは披露し、ファンから音源化の要望が高かった2曲を配信リリースするという。「えのぐ」は“僕”と“君”の心の重なりを絵の具の色で表現したラブソング。力強いストロークにのせた歌声は、淡くくぐもりながらもどこか艶やかさも醸し出しており、コーラスではドキッとさせられる瞬間もある。もう一方の「Love story」はアルペジオによる繊細なラブバラード。別れた恋人に不意に出会ったしまった際の心境を描いており、その切実な歌声が胸に迫ってくる。「東京は」から続くこの3曲とも、小細工やギミックなしのシンプルでストレートな物言いだが、だからこそ、誰もが心の奥底にしまい込んでおきたい苦くも甘い記憶を呼び越すような響きを持っている。その凛とした佇まいの歌声と優れた情景描写は、おそらく時代を超えて、思春期の揺れ動く心を打つはず。「奇跡の歌声」と大風呂敷を広げるのは好みではないが、この歌声に出会えたことは奇跡だと思う。また、東京にきた彼女は今後、どんな楽曲を描いていくのだろうか。今はただ、彼女のメジャーデビューを待ちたい。

■「えのぐ/Love story」配信先

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門脇更紗 twitter

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