西城秀樹が座右の銘とした「一生青春」、その言葉が示す正真正銘のアイドル性

 しかし後年、よく知られているように、西城秀樹は脳梗塞発症による長い闘病生活を送ることになる。その苦しさを他人からうかがい知ることは到底できないが、彼の言葉からは、妻や子どもなど家族の大きな支えを得るなかで、少しずつ自分の弱さを受け入れていった様子がわかる。「病気になる前は「カッコよくあることが務めだ」と信じていた」が、「いまは、たとえ不自由でも、ありのままの姿を見てもらえればいい。むしろ、ちゃんと見てもらいたい」「今のぼく、ありのままのぼくを自分が認め、前へ進もうとしていれば、だれにも恥じる必要などない」。

 それはいうまでもなく、最後までファンとともに人生を歩むということでもあっただろう。「「待ってくれているファンがいる」こう実感したことで、ぼくはどんなに励まされたことか」。それは、病気療養からの復帰となったチャリティーコンサートのステージに立って彼が抱いた偽らざる思いだった。また2006年の復帰第1弾シングルとなった「めぐり逢い」を歌うとき、詞に出てくる「あなた」とは、「ファンであり、家族だったんだな」と思うようになった。

 西城秀樹の座右の銘は、本のタイトルにもなっている「一生青春」だったという。「サミュエル・ウルマンという人の詩に「青春とは年齢ではなく、好奇心がある限りは青春だ」というのがあって、ぼくはこの詩が大好きで自分もそうありたいと思う」。

 そのことを知ると、アーティストであるとともに、やはり彼はずっと“アイドル・西城秀樹”だったのだなと気づく。好奇心を失わない限り、人は成長し続けられる。そんな可能性を体現する存在こそがアイドルだろうと思うからだ。そしてそれは、自分は完璧ではなく弱い存在であると認めることと表裏一体のものだろう。

 自分はアイドルなのか、アーティストなのか。それは、現在も多くのアイドルがぶつかる根源的な問いだ。そしてその問いに、おそらく終わりはない。西城秀樹は、いわばそうした問いを真摯に引き受け続けた正真正銘のアイドルであった。その姿勢は、新御三家として活躍した時代から闘病のなか歌い続けようとした後年まで変わることはなかった。だからこそ、彼がたどった軌跡はこれからも輝きを失うことは決してないに違いない。

■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『SMAPと平成ニッポン 不安の時代のエンターテインメント』(光文社新書)、『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』(双葉社)、『木村拓哉という生き方』(青弓社)、『中居正広という生き方』(青弓社)、『社会は笑う・増補版』(青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。

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