SUPER BEAVER、sumikaら所属レーベル<murffin discs>志賀正二郎氏が語る、“日本語のメッセージ”を大切に歩んだ軌跡

新しいコンテンツでマネタイズする必要性

ーーレーベルの良さを楽しめるのが『murffin night』だと思うんですけど、今年は新型コロナウイルスの影響で3月6日の名古屋ダイヤモンドホール、3月18日の新木場STUDIO COASTでの開催が中止になりました。ロックバンドの大きな力の一つは現場で音楽を伝えることだと思うんですけど、それができなくなってしまった今、レーベルとしてどういう部分に注力していかなければいけないと考えますか。

志賀:ミュージシャンだからこそ、そこは音楽で何か表現しなきゃいけないのかなと思っていて。もちろん現場のメッセージは重要だと思うんですけど、根本は音楽じゃないですか。ライブはネットで配信くらいしかできないですけど、だからこそ制作したり新曲を書き溜めて、しかるべき時にズドーンと発射できるような準備期間なのかなって思ったりもするんですよね。変な言い方ですけど、そういう時間をもらえたというか。やっぱり最終的にはいい音楽を届けることしかないんじゃないかなと思ってますね。

ーーそんな中でも、例えばSUPER BEAVERのメジャー復帰はファンも歓喜する素晴らしいニュースだったと思いました。

SUPER BEAVER 「ハイライト」 MV

志賀:1回メジャー契約を切られて、どん底に落ちてから這い上がってきた彼ららしいというか、今回のメジャー復帰もこの世の中の状況もあっていいタイミングとは言えなかったですけど、ここから挽回するのがSUPER BEAVERかなとは思ってますね。お客さんとしても平坦な道を行くバンドよりも、デコボコ道を行くバンドの方が人生を投影できると思うし、苦難があった方が音楽は絶対によくなるんですよね。ずっと成功してるバンドは見たくないとは思うんですよ。やっぱりドラマがないと、奮い立たせる何かがないと無理なんだろうなって。

ーー志賀さんご自身も、そうやってドラマを作るアーティストに惹かれてきたんでしょうか。

志賀:まさにそうですね。フィッシュマンズがすごく好きなんですけど、もう彼らってドラマしかないじゃないですか。ものすごいドラマの中にああいう音楽性があって。佐藤(伸治)さんが亡くなった後、ライジングサン(『RISING SUN ROCK FESTIVAL』)で復活するっていう話があったんで観に行ったんですけど、もう号泣でしたね。勝手に涙がドロドロ出てくるっていうか......あのライブはたまらなかったです。あとはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTも好きで、豊洲でやった第2回のフジロック(『FUJI ROCK FESTIVAL』)を見に行ったんですけど、お客さんがドミノ倒しみたいになってライブが何回も中断して......。

ーーものすごい映像が残ってますよね。

志賀:すごかったですね。地面がマジで揺れたんですよ、これ大丈夫かな......みたいな(笑)。何回も中断して、チバ(ユウスケ)さんが「下がってくれ」みたいに言って。ああいうハプニングが起きても、やっぱりアーティストがちゃんと引っ張ってくれる感じというか、そういうものにこそ惹かれる気がしますよね。

ーーフィッシュマンズにしてもミッシェルにしても、そういう出来事って意図的に引き寄せられるものではないじゃないですか。

志賀:運命的なものを感じますよね。

ーー特に2010年代以降はネット発のソロアーティストも増えてきたからこそ、そこに生まれるドラマ性も90年代とは違うものになってきていると感じます。

志賀:そうですね。それこそネット上だと炎上もありますから、ハプニングってあまりいい例ではないと思うし、発言には慎重にならざるを得ないですよね。ただ、こういう時代だからこそ起こせるバズもあるんだろうなとは思ってます。やっぱり新しい仕掛け方も常に考えなきゃいけないんだろうなって。

ーーその点で、今面白いと感じられている新しいカルチャーってどういうものなんでしょうか。

志賀:今年は新木場でのレーベルナイトができなかったので、事務所を使ってスタジオライブをやったんですけど、それを小学生の息子がYouTubeで見ていて「パパ、テレビ出てるね」って言われたんですよ。完全に芸能人みたいな感覚で言われた時にハッとしたというか、最近の子って「YouTuber=芸能人」なんだと思って。カッコいい職業、なりたい職業上位にYouTuberがあるっていう話もよく聞くじゃないですか。今の子たちにとっては、YouTubeがヒーローになり得るコンテンツなんだってことを身をもって知らされたんですよね。テレワークになってから息子と一緒によくYouTuberの動画を見るようになったんですけど、どれもしっかりコンテンツを作っていて。正直ちょっと舐めてたところがあったんですけど、ネタも考えなきゃいけないし、何日もかけて撮影と編集やってもたった10分ちょっとの動画しか作れないんだ......と思うと、ものすごいハードな仕事だなと思って、ちゃんとリスペクトするようになりました。レーベルでも、僕がピエロになってもいいから、そういう新コンテンツ事業部を作ってみたいねっていう話をしてたところなんです。

はっとり(マカロニえんぴつ) / 恋人ごっこ

ーーMVなどとは別に、アーティストが出演する動画を充実させていくイメージでしょうか。

志賀:そうですね。もちろんアーティストの個性によって、動画に出演する、しないはあるとは思いますが。こうやってアーティストが現場で動けない状況になった時に、新しい動画コンテンツでマネタイズして、お金を生み出すことも考えなきゃいけない。こんな状況になるとは正直思ってなかったですけど、コロナ禍が一度収まってもまた来るかもしれないので、新しいコンテンツ作りはちゃんとしておかないとダメだなって今すごく感じてます。あと、いわゆるロック好き、音楽好きだけじゃないグレー層を掴むには、それがいいんじゃないかって思ったりするんですよね。ちゃんと音楽に付随したもので、好きな趣味を伸ばしていく企画とか、ネットで配信できることはたくさんあるよなって思います。

ーー軸にロックバンドがありながらも、かなり柔軟にチャレンジしていくことをお考えなんですね。

志賀:そこはかなり自由に考えてるというか、僕がカッコ悪いと思ってることが、実は世の中的にはカッコいいのかもしれないし、数年後にカッコよくなってるのかもしれない......そう思うと、あんまり型にはめて考えたくはないですね。昔と比べたらすごく柔軟になった気がします。一つ思うのは、アーティストをマネジメントするっていうのは、言うなれば宝くじみたいな部分もあって、買わないと当たるかどうかも分からないんですよね。確率は決して高くはないし、少なからず運もあると思うんですけど、だからこそうちのレーベルはアーティストに下駄を履けせたくないんです。動員が全然ないのにデカい会場押さえてライブやれっていうのはできなくて。しっかり身の丈に合った活動を重ねていかないと足元を掬われちゃうなとは思ってるので、そこはすごく大切にしていることかもしれないですね。

murffin discsオフィシャルサイト
murffin discs Twitter

連載「次世代レーベルマップ」バックナンバー

・Vol.1:<small indies table>鈴木健太郎氏 前編後編

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