Megan Thee Stallion、Doja Cat、Charli XCX……コラボやTikTokでポップシーン盛り上げる5作をピックアップ

オンラインゲーム「フォートナイト」で発表された、待望のコラボレーション
「THE SCOTTS」/ THE SCOTTS (Travis Scott, Kid Cudi)

THE SCOTTS, Travis Scott, Kid Cudi - THE SCOTTS (FORTNITE ASTRONOMICAL EVENT)
THE SCOTTS (Travis Scott, Kid Cudi)「THE SCOTTS」

 2020年における最大のライブパフォーマンスとなった、オンラインゲーム『フォートナイト』上で実施されたトラヴィス・スコットによる『Astronomical』。事前に、本イベントにおいて彼の新曲が発表されることが告知されていたのだが、その楽曲が、キッド・カディとのコラボユニットであるTHE SCOTTS名義で発表された「THE SCOTTS」である。『Astronomical』という、アルバム『ASTROWORLD』の世界観を表現した空間上で発表されたことからも分かる通り、本楽曲は同作の作風の延長線上にある楽曲と言えるだろう。ややスローなトラップビートを軸に歌声に重きを置いた楽曲展開や、アナログシンセサイザーの音色使いなど「SICKO MODE」に代表される近年のトラヴィス・スコットのモードを改めて示したサウンドに仕上がっている。

 今回、トラヴィス・スコットとタッグを組んだキッド・カディは2000年代後半から2010年代前半にわたって、カニエ・ウェストとの楽曲制作や、内省的な作風で注目を浴びていたが、実は2016年に鬱状態を公表し、以降は闘病生活を送っていた。2018年のカニエ・ウェストとのコラボ作『KIDS SEE GHOSTS』などで回復する姿を見せてきた彼だが、本楽曲では自身の特徴でもあるダウナーでサイケデリックな音色も取り入れつつ、〈N****s don't know where to go, gotta keep givin' em heat, heat.〉(行き先の分からない奴らが沢山いる。彼らを燃え上がらせないとな。)と歌い、ついにリーダーとしての復活を宣言している。

 筆者個人としては、本楽曲の背景には単なるコラボレーション以上に、トラヴィス・スコットによるキッド・カディをサポートしようという意志があったのでは無いかと推測している。だからこそ、本楽曲は大注目を浴びるゲーム内イベントで初披露されたのではないだろうか。結果として「THE SCOTTS」の初披露は延べ1200万人以上が目撃することとなり、翌週の全米ビルボードチャートでは初登場1位というキッド・カディにとって初となる記録を残している。当時のヒップホップシーンでは異端だった内省的でダークな作風は、今ではビリー・アイリッシュやドレイクが台頭する現代のポップシーンの基礎として語られている。継続が明言されている本プロジェクトを含め、完全復活したキッド・カディの動きに今後も注目していきたい。

現代のムードを体現するダークなハウス・ミュージック
「Secrets」 / Regard, Rhye

Regard, RAYE - Secrets (Lyric Video)
Regard, Rhye「Secrets」

 2019年に「Ride It」がTikTokを中心にバズを起こしたヨーロッパ・コソボ共和国出身のDJ、Regardによる新曲「Secrets」。「Ride It」はジェイ・ショーンによるR&Bの原曲をハウスに作り変えた楽曲で、近年流行のハウスの流れに乗りつつも、そのダークな雰囲気から「独り身のためのダンスミュージック」としてTikTok上で大きなミームとなった。「Secrets」も同様にRhyeによる官能的なボーカルを活かしつつも決して享楽的にはならないダークな空気を纏ったハウスミュージックとなっている。

 また、反復が肝となるダンスミュージックとしては音色の足し引きが多く、展開が多岐に渡るのも特徴的と言えるだろう。TikTokなどのSNSでは楽曲の一部分が切り取られて拡散されていくため、そのような背景を意識して楽曲全体に様々な切り出し場所を用意するように制作されていると考えることも出来る。

 2010年代半ばはEDMを中心に、大型ダンスミュージックのメインステージの盛り上がりを意識したアッパーで享楽的なサウンドがシーンの中心を占め、後半にはThe Chainsmokersのようにチル、もしくはエモーショナルな楽曲が主流となった。しかし、近年ではRegardの楽曲のように踊れるとはいえ、あくまで冷静さを保ったダークでスタイリッシュな楽曲が人気を博す傾向が強い。どことなく閉塞感が漂う今の時代のムードがメインストリームのサウンドにも現れていると言えるだろう。今はあの時のように盛大にパーティをする気にはなれないかもしれない、だが踊ることは出来るのだ。

RealSound_ReleaseCuration@noimura_20200510

■ノイ村
92年生まれ。普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。
シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
note
Twitter : @neu_mura

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「新譜キュレーション」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる