常田大希が描き出す純度の高い“驚き” millennium parade「Fly with me」から感じた比類なき創造性を考察

J-POP的なカタルシスを再現した「Fly with me」

 そんな状況で突入した2020年。そして「Fly with me」である。「Fly with me」は、2019年5月に開催されたライブ『“millennium parade” Launch Party!!!』ですでに披露されている。そこからブラッシュアップを重ね、King Gnuの活動で学んだ“J-POP的なメロディのつけ方と歌モノの要素”を取り入れたことによって、現在の形にまとまったそうだ(参照:Movie Walker)。

 つまりKing Gnuでの活動、とりわけ2019年の躍進を経て生まれた曲ということ。「Fly with me」の構成を分解すると以下のようになる。

A-B-A-B-C-A-B-B’-A’

 「A」はMVで言うところの0:34~、〈Money make the world go around〉から始まるパート。コードの数が少なく、ボーカルの譜割りが「白日」並みに細かい。「B」は0:57~。ブラスによるキメ(イントロにも登場するもの)と〈~with(With) me〉と歌うボーカルが交互に登場する。「A」と比べ、ボーカルに伸ばしの音が多いのが特徴的だ。「C」は2:23~のラップパート。

millennium parade - Fly with me

 一方、J-POPで頻繁に見られる「Aメロ→Bメロ→サビ」「2番が終わったあと、さらにもう一展開あってからラスサビに入る」という構成は以下の通り。

A-B-C-A-B-C-D-C(C’)

 こうして並べてみると、「Fly with me」はいわゆるJ-POP的な構成をした曲ではないことが分かるだろう。では、どこに“J-POP的なメロディのつけ方と歌モノの要素”が取り入れられているのか。それを考えるうえで焦点を当てたいのが、曲の終盤に登場する「A」「B」の発展形、「A’」「B’」だ。

 順を追って見ていこう。キメ→ボーカル→キメ……という構成の「B」に対し、「B’」では、ボーカルの二声が掛け合いを展開しており、そこに変形バージョンのキメが被せられている。この変更により、ワンフレーズの周期が10拍(「B」)から4拍(「B'」)に早まっている。メロディを変えることにより、テンポを速めずとも聴き手の焦燥感を煽る効果を獲得。そうして「B’」では曲がクライマックスに差し掛かっていることを暗に示している。

 そして「A'」のボーカルはE♭の音を軸にしており、Cの音を軸とした「A」と比べ、全体的に短3度分ほどメロディの音域が上がっている。さらに、ボーカルの声もしっかり張っているため、曲の冒頭よりも、感情がグッと入っているように聴こえる。ちなみに「Fly with me」には転調が一度もない。しかし(メロディ、ボーカルを含めた)“歌”を工夫することにより、(J-POPでよく見られる)“ラスサビでの転調”に近いカタルシスを再現することに成功しているのだ。

 King Gnuをきっかけに常田大希という音楽家にアクセスするようになったリスナーの数はこの1年で明らかに増えた。常田自身も「King Gnuのお客さんも多かったと思うんだけど、いわゆるJ-POPフィールドのKing Gnuのお客さんが、前知識なしでああいうライブを観ることや、初めて聴くビートがあったり、そういう音楽を楽しむ状況ってお客さんにとってもすごくいい経験というか……。(中略)だからこのプロジェクトを体験することで、新しい音楽の楽しみ方を知るきっかけになってくれたら嬉しいね」と言及しているように(参照:HIGHSNOBIETY JAPAN)、おそらく、King Gnuをきっかけにmillennium paradeを知った人も少なくはないだろう。

 そんななか、2020年以降の彼が目指すところは何なのか。それは、純度の高い“驚き”を生み出していくこと、毒入りの水における毒を増やすこと、未知で異端な音楽もJ-POPとして普通に受け入れられる世の中の土壌を作ること――なのかもしれない。ここからもっと面白くなりそうだ。

■蜂須賀ちなみ
1992年生まれ。横浜市出身。学生時代に「音楽と人」へ寄稿したことをきっかけに、フリーランスのライターとして活動を開始。「リアルサウンド」「ROCKIN’ON JAPAN」「Skream!」「SPICE」などで執筆中。

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