Marker Starling、Cabane、Trace Mountains……自宅でロマンティックに聴きたい男性インディーアーティスト5作

Trace Mountains『Lost in the Country』

Trace Mountains『Lost in the Country』

 Trace Mountainsは、Mitski、Frankie Cosmos、Floristなどの作品を送り出してきたNYのインディーレーベル<Double Double Whammy>のオーナーであり、2018年に解散したバンド、LVL UPのメンバーでもあったDave Bentonのソロユニット。Sebadohみたいな雰囲気もあったLVL UPのローファイなサウンドを脱皮して、Belle and Sebastianあたりに通じるようなインディーポップへとシフトした今作『Lost in the Country』。ビオラやミュージカルソー、メロトロンなど多彩な楽器を使いながら、繊細なアレンジと落ち着いたバンドサウンドで、美しいメロディを優しく包み込んでいる。シャイではにかんだようなBentonの歌声からも人柄が伝わってくるようで、<Double Double Whammy>の新しい看板バンドになりそうな予感。

Trace Mountains - Lost in The Country

Hamilton Leithauser『The Loves of Your Life』

Hamilton Leithauser『The Loves of Your Life』

 2014年に解散したNYのインディーバンド、The Walkmenでボーカルを担当していたHamilton Leithauserの新作『The Loves of Your Life』。前作『I Had a Dream That You Were Mine』(2016年)は元Vampire WeekendのRostamとのコラボレーションだったが、今回はLeithauserがほとんどの楽器を演奏して自宅スタジオで作り上げた。力強いドラムから生み出されるダイナミックなグルーヴは、宅録とは思えないほど躍動感に溢れている。The Walkmenから受け継がれたガレージロックやビンテージR&Bをベースにしたパワフルなサウンドの中心にあるのは、Leithauserのソウルフルな歌声だ。奥さんや幼い娘、その娘が通う幼稚園の先生がコーラスに参加していることから、Leithauserが「巧さ」ではなく「気持ち」を大切にしていることがわかる。歌から溢れ出す情熱が、心優しきダンディズムが胸を打つ一枚。

Hamilton Leithauser - Here They Come (Lyric Video)

M. Ward『Migration Stories』

M. Ward『Migration Stories』

 女優・Zooey Deschanelとのユニット、She & Himとしても活動するシンガーソングライター、M. Wardの新作『Migration Stories』は、タイトルどおり「移住」がテーマのアルバム。Wardはカナダのケベックを旅しながら、Arcade FireのTim KingsburyとRichard Reed Parryと一緒にレコーディングした。余白をたっぷりとってリバーブを効かせたサウンドが心地良い浮遊感を生み出すなかで、タバコの煙のように揺らめくギターの音色。カントリーやフォークなどルーツミュージックに根ざした曲を、眠たげな声で歌うWardは遠くから来た放浪者のようだ。ほとんどの曲はスローテンポで、この混乱に満ちた世界の中で静かに語りかけてくる。自粛で家にいることが多い今日この頃、この歌に乗って見知らぬ国へ旅することができるだろう。

M. Ward - "Unreal City"
RealSound_ReleaseCuration@Yasuo_Murao20200426

■村尾泰郎
音楽/映画ライター。ロックと映画を中心に『ミュージック・マガジン』『レコード・
コレクターズ』『CDジャーナル』『CINRA』などに執筆中。『ラ・ラ・ランド』『グ
リーン・ブック』『君の名前で僕を呼んで』など映画のパンフレットにも数多く寄稿す
る。監修/執筆を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シン
コーミュージック)がある。

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