宇多田ヒカル、繊細なリズム感覚と『初恋』以降のモード ドラマ『美食探偵 明智五郎』主題歌「Time」から紐解く

宇多田ヒカル『美食探偵』主題歌を分析

 「Time」は先に述べたようにプロダクションの観点から言えばそっけないほどシンプルで、なんならそこにベッドルームポップ的親密さを感じ取ってしまいそうになるほどだ。飛び道具的なサウンドやエフェクトは廃した楽曲である一方で、『初恋』で聴かせた宇多田の最近の極まったモードが相変わらず(もちろん変化しながら)継続していることがたしかに感じられる。

 まだフル尺が解禁前なので細かい言及は控えるが、歌詞の点でも、個の感情や、あるいは個と個の固有な関係性を貫くことの凄みを、しかし軽やかに描いている点で、『初恋』のモードから地続き――というかそもそも、宇多田の作家性とはそういうことなのかもしれないが――である。

 宇多田はこの「Time」に加えて、「誰にも言わない」(「サントリー天然水」新TVCMソング)を発表したところだ。はっきり聴けるのはごく一部にすぎないが、こちらはこだまのように呼応し合うボーカルのレイヤーが深さと壮大さを演出しつつも地に足のついた印象だ。リリースは5月29日を予定しているというが、フルで聴けるのが待ち遠しい。

サントリー天然水『光も風もいただきます』篇 60秒CM / 宇多田ヒカル

 こう立て続けに新曲をリリースされると、どうしても新しいアルバムにいっそうの期待が高まる。『初恋』では海外のプレイヤーとセッションした楽曲が数多く収録されたが、昨年宇多田が参加した井上陽水トリビュートではEnsemble FOVEとコラボレートしていたのが記憶に新しい。ちなみに『美食探偵 明智五郎』の音楽もEnsemble FOVEが全面的に参加している模様(参照:Twitter)。もし今後アルバムが視野に入っているのであれば、Ensemble FOVEとオリジナル曲で共演するところも聴いてみたいものだ。

■imdkm
1989年生まれ。山形県出身。ライター、批評家。ダンスミュージックを愛好し制作もする立場から、現代のポップミュージックについて考察する。著書に『リズムから考えるJ-POP史』(blueprint、2019年)。ウェブサイト:imdkm.com

宇多田ヒカル『Time』

■リリース情報
配信シングル『Time』
2020年5月8日(金)より配信スタート

<Tracklist>
1. Time

宇多田ヒカル オフィシャルサイト

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