VTuberユニット HIMEHINAが注目集める理由 笑いで幸せを与え、歌で愛を伝える2人の魅力に迫る

参加ミュージシャンによる生演奏で聴かせる『藍の華』

 このアルバム『藍の華』は、数多くの新曲を収録した他、「ヒトガタ」「ヒバリ」「うたかたよいかないで」「琥珀の身体」といった人気配信曲やインタールードなど全19曲を収録。層の厚い参加ミュージシャンによる生演奏で、アーティストHIMEHINAの全身全霊が詰め込まれたものになった。

 表題曲の「藍の華」は、2月にEX THEATER ROPPONGIで開催したワンマンライブ『田中音楽堂オトナLIVE 2020 in TOKYO「歌學革命宴」feat.鈴木文学堂』の最後にお披露目をしたアッパーのロックチューン。ソリッドなギターサウンドに絡むエモーショナルなボーカルが実に格好良く、随所に放り込まれるラップも楽曲のフックになっている。まるでバトルものアニメのテーマソングのようなアツさとキャッチーさは、アニメテーマソングを担当するのが夢というHIMEHINAらしい1曲だ。この楽曲にはi☆Risなど声優、アニソン、ゲームなどの音楽を手がける馬渕直純(G/All other instruments )、広瀬すず主演の映画『一度死んでみた』の劇伴への参加、SCREEN modeのライブサポートなど行う二家本亮介(Ba)、GRANRODEOのサポートなどを行っているSHiN(Dr)がレコーディングに参加。ロックスピリットが溢れまくった1曲になっている。

HIMEHINA『藍の華』

 NHK『バーチャル紅白歌合戦』でも披露した「ヒトガタROCK ver.」もしかり、もともと打ち込みで作られたK-POP風の人気ヒップホップナンバー「ヒトガタ」(957万回再生)が、バキバキのロックサウンドにリアレンジされた。参加ミュージシャンはAKB48などのレコーディングにも参加しているDORA/沢頭たかし(Gt)、The Super Ballのライブサポートなどで活躍するSETUNACREWSの安達さとし(Ba)、ジャニーズからハロプロまで多彩なレコーディングに参加する元SUPER EGG MACHINEの今村舞(Dr)が参加。圧倒的なサウンドにまったくひけをとらない、2人のボーカルのパワーが凄まじく、「ヒトガタ」の新たな魅力が開花した。

 水樹奈々の「Birth of Legend」や関ジャニ∞「月曜から御めかし」の作曲を手がけ、「ヒトガタ」のオリジナルバージョンのアレンジを手がけた南田健吾による「溺れるほど愛した花」も秀逸だ。切なく深遠な世界観のロックバラードで、ピアノとアコギのサビは、エモーションが爆発するような激しさだ。また同様にバラードの「夢景色」も聴き応えがある。JAM Projectのライブにも参加している西村奈央によるピアノをバックにせつせつと歌うヒメのボーカルは実にソウルフルかつ繊細で、知らなければあのゲラだんごと同一人物とは思えないだろう。

 またラストの「My Dear」は、まるで月灯りの下で歌っているような幻想的でしっとりした雰囲気。歌詞はネットという深淵なる世界に生まれ、多くの人の支えでここまで来られたことへの感謝が伝わってくる。今にも泣き出しそうに歌う2人の歌声は、きっと聴いた人の胸を掴んで離さないだろう。さながら「HIMEHINA Channel」のエンディングテーマで、配信を見て大笑いした最後にこの曲を聴きながら眠りにつけたらどんなに幸せだろうかなどと想像が広がる。

 笑いで幸せを与え、歌で愛を伝えるHIMEHINA。今月末から予定されていたZeppツアーは中止となったが、アルバム『藍の華』を聴けば、2人がいかにホンモノであるか分かるはず。昨年9月に配信リリースされた「うたかたよいかないで」の〈まってて まってて 未来で笑ってまってて〉という歌詞が今ふと頭をよぎる。2人の切なる願いと、この熱い気持ちを胸に抱いて、その日を心待ちにしたい。

■榑林 史章
「山椒は小粒でピリリと辛い」がモットー。大東文化大卒後、ミュージック・リサーチ、THE BEST☆HIT編集を経て音楽ライターに。演歌からジャズ/クラシック、ロック、J-POP、アニソン/ボカロまでオールジャンルに対応し、これまでに5,000本近くのアーティストのインタビューを担当。主な執筆媒体はCDジャーナル、MusicVoice、リアルサウンド、music UP’s、アニメディア、B.L.T. VOICE GIRLS他、広告媒体等。2013年からは7年間、日本工学院ミュージックカレッジで非常勤講師を務めた経験も。

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