楽曲制作における“ミキシング/マスタリング”の重要性とは? PAX JAPONICA GROOVEが語る、海外エンジニアから受けた刺激

PJGが語る、“ミキシング/マスタリング”の重要性

クラブミュージックがベースだけど、人間としてはシンガーソングライター

「Feel Me」 Music Video

――そのために、何度もトライ&エラーを繰り返しながら、自分の音楽に向き合っていったんですね。具体的には、どの曲からつくりはじめていったんでしょう?

黒坂:最初につくったのは、5曲目の「Jealous」ですね。

――アルバムの中でも最もビートが強調された楽曲ですね。

黒坂:一番パリピっぽい曲と言いますか(笑)。これまであまりやってこなかったタイプの曲から作っていきました。その次が3曲目の「Untouchable」です。この曲は、完成までに一番時間がかかった曲でした。ミックスやマスタリングを何度も色んな人に頼みましたし、ドロップ部分のワブル的な、揺れるようなサウンドも、僕はそもそもどうやったら出るのか分からなかったですし。それまでつくってきた音楽とはちょっと違うものだったからこそ、苦労した曲でした。あと、この曲は、今の海外の音楽の主流になっている音数の少ない楽曲の魅力を、自分の音楽にどう上手く取り入れていくのかを考えた曲でもあります。この曲をつくったときに、「まだ無駄な音が多い」と色んな人から言われたので、それ以降曲をつくっていく際にも、この曲が目安になっていきました。

――やはり、今回のアルバムでは、新しい要素を色々と取り入れていったんですね。

黒坂:でも、全体を聴いてもらうと、今まで僕の音楽を聴いてくれていた人も、「こいつ、何か変わったな」とは、思わないんじゃないかな、と。それが、さっき話していた「ジャンルの問題ではなく能力の問題だ」ということで大幅にレベルアップした自負がありますし、方法論を変えたとしても、もともとの自分らしさというものは、きちんと作品にアウトプット出来たと思っています。

――自分らしさを見つめていく作業にもなった、と。

黒坂:やっぱり、キャラと違うことをするから違和感が出るという話で、新しいことをするにしても、「そもそも自分はこういう人間だ」というところはずっとブレずに持っておきたいと思うんです。僕の場合、クラブミュージックがベースではありますけど、人間としてはシンガーソングライターとか、バンドに近いタイプなのかな、と思っていて。ベースとなる信念は、それこそ最初に「音楽をやっていきたい!」と思った頃から変わっていない気がします。

――他にも、アルバム制作の中で印象的だった楽曲や、そのときの思い出を教えてください。

黒坂:6曲目の「Wobble Tokyo」は、サウンド的にはフューチャーハウスになっていますけど、そこに和の要素を加えている曲で。このタイトルは「ワブルベース」から取っていて、これには、ちょうどオリンピックを前にぐらついている東京のイメージも重ねました。つまり、「東京のアイデンティティって、どうなんだ」というテーマの曲でもあって、それをワブルベースの揺れ動く音で表現してみたんです。

――PAX JAPONICA GROOVEの楽曲には、この曲のように和の要素を加えた楽曲も多くありますね。その際に工夫したことはありますか?

黒坂:この曲の場合だと、三味線を乗せる前のトラックを、しっかりとつくることですね。三味線を抜いたら和モノではない、モダンなフューチャーハウスに聞こえるようにしています。あと、三味線の音は、生演奏を入れてしまうと生々しくなってしまうので、シンセの音で入れていて。海外の人が和のテイストを取り入れるときの雰囲気に近くしているんです。今回のアルバムは、実際に海外の人たちとつくった作品でもあるので、デザインやムービーも含めて、そんなふうに海外基準で考えていきました。

パラデータを配ることで「ミキシング/マスタリング」の魅力を知ってほしい

PAX JAPONICA GROOVE -Untouchable (Official Lyric Video)

――今回CD版には、この曲のマルチデータとmidiデータがついてくるそうですね。

黒坂:今回僕が経験した課題として「ミキシング/マスタリング」の問題があったこともあって、まったくお化粧をしていないパラデータを配ることで、その作業を通して曲がどんなふうに変わったのかを、体験してもらおうと思ったんです。きっと聴き比べてもらうと、「全然違うな」となるんじゃないかと思うので。そうすることで、ミキシングやマスタリングの魅力が伝わりやすいと思いますし、その体験って、もしかしたら「音楽をもっといい音で聴きたいな」ということにも繋がっていくのかもしれません。また、このデータを音ネタとして使って曲をつくってもらってもいいですし、リミックスをしてくれても、自分で独自にミキシング/マスタリングをしてくれても嬉しいな、と思っています。

――ラスト曲「Thinkin' Bout You」についても聞かせてください。この曲は、ほのかにソウルテイストも感じられる楽曲になっていますね。

黒坂:そうですね。ちょっとR&Bの要素が入っているというか。僕はこういう曲って、実は得意なんです。すごく気に入っている曲ですね。ストリングスは、海外の方に弾いてもらいました。僕の場合、アルバムでは毎回アッパーな曲ではじまって、最後はしっとりと終わることが多いんですけど、今回もそんなふうに、聴く人のことを意識して曲順を考えました。

――今回アルバムをつくった2年間は、黒坂さんにとってどんな経験になりましたか?

黒坂:正直に言うと、1年目はものすごくストレスが溜まりました(笑)。海外の人と仕事すること自体が、普段とは勝手が違うという意味では大変でしたし、たとえば著作権の管理団体が海外ではどうなっていて、どういう流れなのかという、制作以外のことについても知る必要がありました。レコーディングも、日本と他の国でやるのとでは体験として全然違いますし、やりとりを進めていく中で、お互いの意見がぶつかったりすることも結構ありました。

 もちろん、それはお互いに妥協せずに向き合った結果なので、最終的には「一緒に苦労を乗り越えた」と言えるような関係になれたと思っています。アルバムタイトルの「Wired Future」は、そんなふうに2年間で出会った人たちとの繋がりを経て、「じゃあ、ここから未来はどうなっていくんだろう?」という意味を込めてつけたものです。新しい要素を取り入れた一方で、「Breakthrough The Sky」や「Alone Together」「Starlit」のように、これまでのPAXらしいピアノハウス的な曲も入っているので、色んな面に触れてもらえたら嬉しいですね。

――大きな挑戦を経て作品を完成させた今、黒坂さんはどんなことを考えていますか?

黒坂:まずは、また久しぶりにライブをやりたいなと思っています。あと、なるべく年に1枚のペースで作品を出していきたいな、とも思っていますね。今回、せっかく2年かけて色々な人たちに刺激をもらったわけですから、この感覚を忘れないうちに、また作品がつくれたらいいな、と。今回アルバムとして形にできたことで、また課題も見えてきましたし、「次はもっと行けるんじゃないか」とも感じているので、自分の音楽に耳を傾けてくれる新しい人が出てきてくれると信じ続けて、音楽をつくっていきたいと思っています。

■リリース情報
PAX JAPONICA GROOVE(パックスジャポニカグルーヴ)
タイトル(アルバム):『Wired Future』
発売日:4月8日(水)
フォーマット:CD/デジタル

<収録曲>
1.Feel Me
2.Breakthrough The Sky
3.Untouchable
4.Alone Together
5.Jealous
6.Wobble Tokyo
7.Just Heavenly
8.Bring It Out
9.Stay True
10.Starlit
11.Ancient Romance
12.Thinkin' Bout You

<特典情報>
CD:44.1khz24bit音源/「Wobble Tokyo」のマルチデータ及びmidiデータ
デジタル:ボーカル楽曲のインストルメンタルver

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TSUTAYA

■MVリンク
「Breakthrough The Sky」 Music Video
「Feel Me」 Music Video
「Wobble Tokyo」 Music Video
「Untouchable」Music Video

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