大槻ケンヂ楽曲と久米田康治原作アニメはなぜ相性が良い? 『さよなら絶望先生』と最新作『かくしごと』から考察

シニカルさの共鳴で生まれたコラボ

 アニメ『さよなら絶望先生』シリーズの例からも、久米田作品と大槻ケンヂは非常に相性が良い。それはシニカルという両者共通の持ち味が、共鳴しているからかもしれない。まず久米田の作風として、社会風刺とパロディ精神が挙げられる。ブラックコメディ漫画として現在も根強い人気のある『さよなら絶望先生』では、仲間の漫画家の作品をネタにしたり、その時代のニュースを揶揄したり、次はどんなネタが飛び出すか、ファンはそれを楽しみにした。アニメ『かくしごと』ではマンガ家である自らをパロディしながら、第1話では人気おしゃれスポットや有名コーヒーチェーンが、サブカルの対極にあるものとして描かれた。皮肉を辛辣に、しかし決してシリアスに陥ることはなく、思わず笑ってしまうユーモアで包み込んだ表現手法は、可愛く例えると、甘いのに舐めると口のなかでハジけて舌を刺し、そんな刺激が癖になるパチパチキャンディーのようだ。

 一方、大槻ケンヂは、サブカルの代表格として知られる。漫画、アニメ、小説、映画、アイドルなど多岐にわたる分野に造詣が深く、自身でSF小説を執筆するほど。大槻原作の『縫製人間ヌイグルマー』は、中川翔子の主演で映画化もされた。また、2018年にメジャーデビュー30周年を迎えたロックバンド・筋肉少女帯では作詞を手がけ、メジャーデビューの翌年の1990年には初の日本武道館公演を開催するなど人気を博した。その人気の一端を担ったのが、大槻のキャラクターと一筋縄ではいかない歌詞の世界観だ。

 「踊るダメ人間」(1991年)などでは世の中を斬り、「トゥルー・ロマンス」(1996年)では最愛の恋人がゾンビになっても愛せるのか? と命題を投げかけ、独自の視点が光っていた。そうした大槻節は、大槻ケンヂと絶望少女達でもいかんなく発揮された。『さよなら絶望先生』OPテーマ「人して軸がぶれている」では、アッパーのハードなサウンドに乗せてアイデンティティというものについてシュールに歌い上げ、『俗・さよなら絶望先生』OPテーマ「空想ルンバ」では、ヘヴィメタルサウンドに乗せて、人の価値というものについての疑問を投げかけていた。重いテーマも決して重く聴こえないのは、人気女性声優によるユーモラスで可愛らしいコーラスによるものだろう。また「人して軸がぶれている」は、昨年開催された『平成アニソン大賞』で、企画賞にノミネートされている。

特撮「人として軸がぶれている」
特撮「空想ルンバ」

 久米田作品と大槻ケンヂの歌詞の世界観は、非常に近しい感受性が感じられ、出会うべくして出会ったと言って良いだろう。『かくしごと』とのコラボは、もはや必然だ。大槻ケンヂと“めぐろ川たんていじむしょ”の4人が、「愛がゆえゆえ」でどんな新たな化学反応を起こすのか。また、絶望少女達との10年ぶりのコラボによる「あれから(絶望少女達2020)」は、どんな新たな衝撃を与えてくれるのか。シニカルの共鳴から生まれた2曲のコラボソングに熱い期待が寄せられている。

■榑林 史章
「山椒は小粒でピリリと辛い」がモットー。大東文化大卒後、ミュージック・リサーチ、THE BEST☆HIT編集を経て音楽ライターに。演歌からジャズ/クラシック、ロック、J-POP、アニソン/ボカロまでオールジャンルに対応し、これまでに5,000本近くのアーティストのインタビューを担当。主な執筆媒体はCDジャーナル、MusicVoice、リアルサウンド、music UP’s、アニメディア、B.L.T. VOICE GIRLS他、広告媒体等。2013年からは7年間、日本工学院ミュージックカレッジで非常勤講師を務めた経験も。

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