Lady Gaga、Powfu、Lil Uzi Vert……ポップミュージックシーンの今を掴む5作をピックアップ

Powfu「death bed (feat. Beabadoobee)」

TikTok発、人々に寄り添うローファイヒップホップ

Powfu「death bed (feat. Beabadoobee)」

 昨年のLil Nas X「Old Town Road」を筆頭に、最近ではTikTokなどを中心とした自己表現型のSNSを中心に生まれるヒット曲も珍しくない。その中でもSNSの枠を超えて、2020年を代表する楽曲になるポテンシャルを秘めているのがカナダ出身のラッパー・Powfuが手掛ける「death bed (feat. Beabadoobee)」である。

 荒い質感の軽快なギターのストロークとドラムで構成された、最近トレンドのローファイヒップホップの流れにあるトラック。その上で綴られるのは、死を目前に迎え、まだそれを受け入れられない語り手による愛する人への想いと、“何気ない日常”の愛おしさ。一つのフロウで淡々と言葉を紡いでいくが、〈Sundays, went to church, on Mondays, watched a movie Soon you'll be alone, sorry that you have to lose me.(日曜日には教会に行き、月曜日には映画を観た。もうすぐ君は一人になるけれど、いなくなってしまうことを本当に申し訳ないと思う)〉といったラインなど、日常風景の描写と語り手の感情の対比が実に上手く、何気ない日常をドラマティックなものに感じさせる。その中でループし続ける穏やかで甘いコーラスが、徐々にリスナーに染み込んでいき、ずっと聴いていたくなってしまう。

 この楽曲に呼応して、TikTokでは恋人や親友同士が相手へお互いの想いを伝えるというロマンティックな動画が多く作られ、本楽曲は日常を引き立てる1曲として若者に親しまれている。テーマや楽曲自体が普遍的な良さを持っていることから、今後はTikTokの枠を超え、より多くのリスナーに届いていくことだろう。

Powfu - death bed (feat. Beabadoobee)

Lil Uzi Vert「P2」

ある時代の終わりを告げるための"Part 2"

Lil Uzi Vert「P2」

 3年前、恋人との歪んだ関係性を描いた「XO Tour Llif3」(2017年)が自身最大のヒットとなる中で、Lil Uzi Vertは同曲での自殺願望や不安定な感情を描いたリリックが共感を呼び、同様のテーマを扱っていたアーティストと併せて“エモラップ”とラベリングされるようになった。“エモラップ”はメンタルヘルスの問題を抱える若者達に強く支持され一つの現象になるが、一方で、決して褒め言葉ではないこのラベルは彼にとって呪いのように付き纏うことになる。

 あれから3年が経ち、ラッパーとして確固たる地位を築いた2020年、彼はその呪縛を断ち切ることに決めた。タイトルの「P2」とは、つまり「XO Tour Llif3」の“Part 2”を意味している。原曲のメロディとビートの一部を残したトラックの中で、彼は〈I don't really care 'Cause I'm done.(気にしていない。もう終わったことだから)〉と物語を明確に終わらせ、〈On the real, our love is not fun.(実のところ、この恋愛は楽しいものではなかった)〉と冷静に自らを振り返る。どうやら当時の恋人とは別れたようで、以降のリリックではそれでも前に進もうとする自身の想いが綴られる。

 音楽面に着目すると、複数のライムや緩急の大きく効いたフローをバランス良く組み上げるラップスキルや、感情を入れながらもピッチの安定した歌声を披露しており、この3年での彼の音楽的スキルの成長を改めて実感することが出来る。もはや彼は過去の恋愛にとらわれる必要は無く、純粋に一人のラッパーとして勝負出来るようになったのだ。〈Rest in peace my dead guys.(亡くなってしまったみんな、安らかに眠ってくれ)〉というフレーズに、Juice WRLDやXXXTENTACION、Lil Peep、Mac Millerの名前を思い出す。“エモラップ”という一つの時代を終えて、Lil Uzi Vertは先へ進み続ける。

RealSound_ReleaseCuration@Noimura

■ノイ村
92年生まれ。普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。
シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
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Twitter : @neu_mura

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