氷川きよしが与えてくれた「自分らしくいればいい」という希望 SNSやパフォーマンスから伝わるメッセージ

氷川きよしが与えてくれた“希望”

 2019年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)では、松任谷由実の「ノーサイド」に続けて、紅/白の着物から黒に進化したkii様がドラゴンに乗り「限界」を突破、紅組でも白組でもない世界に突き抜けて、MISIAがレインボーフラッグを掲げ、LGBTQカルチャーをお茶の間に解き放つ、時代を象徴する一幕がありました。

 映画『ボヘミアン・ラプソディ』に大感銘を受けたkii様は、フレディ・マーキュリーのスターとしての孤独に深く共感し、この曲をカバーしたいと熱望。クリスマスコンサートにて湯川れい子さん訳詞のQUEEN「ボヘミアン・ラプソディ」を絶唱しました。

 「フレディという人も、華やかなように見えても孤独を抱えて、人間として見られない寂しさを抱えていた。そんなフレディの思いを感じながら日本語で伝えたかった」(※4)と、日本語詞に強くこだわりました。いつの世も、大スターは、その裏に想像を絶する孤独の闇を抱えているのでしょう。ステージを照らす光が強ければ強いほど、その影は濃くなります。kii様がこれまで抱えてきた孤独と、フレディの孤独が共鳴し、TV画面からはみ出す「きよし・マーキュリー」の大迫力。楽曲をカバーしただけではなく、フレディという存在をカバーしたのではないでしょうか。

氷川きよし / ボヘミアン・ラプソディ~「氷川きよし・スペシャルコンサート2019 きよしこの夜Vol.19」より【公式】

 九州男児の長男として生まれ、様式美である演歌の花道を歩み、周囲から「男らしさ」を求められ続けてきた中で、枠にはめられてしまう苦しみを知っている彼が、不惑を迎えて自分自身を解き放ち、すべての同じ苦しみを持つ人々に「いつかはこの苦しみから解放される時が来る」「男でも女でもどちらでもいい」「あなたはあなたらしくいればいい」という希望を与えてくれます。

 2020年の春。この先どうなるのか全くわからず、心の奥に重いものが積もってゆく毎日の中で、桜の開花を待っています。こんな時だからこそ、kii様の歌う「大丈夫」の一節〈時はうしろに 流れはしない/月が沈んで陽がのぼり 明日は来る〉が沁み渡りました。この先の未来がどんなに不安で恐ろしくても、kii様という桜が満開に咲いてくれているから、大丈夫。

氷川きよし / 大丈夫【公式】

<参照>
※1 人のかたち ノンフィクション短編20 岩切徹・著/平凡社)
※2 デイリー新潮
※3 氷川きよし公式Instagram
※4 日経ARIA 湯川れい子の今日もセンチメンタル・ジャーニー

■松村早希子
1982年東京生まれ東京育ち。この世のすべての美女が大好き。

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