ゆず『YUZUTOWN』密度の高いアレンジから浮かび上がった、J-POPユニットとしての記名性

 たとえばオリジナルアルバムでは前作から参加し、本作ではインタールードの「〜Pinky Town〜」「〜Yellow Town〜」「〜Green Town〜」も担当しているTeddyLoidの仕事はやはり面白い。「マスカット」はテレビ朝日系の人気アニメ『クレヨンしんちゃん』のオープニングテーマで、イントロには野原しんのすけの声もサンプリングされている。これでもかと畳み掛けるコミカルな展開の中に挿入されたボーカルカットアップが強烈だ。前作『BIG YELL』収録の「恋、弾けました。」でも密度高めのコミカルなアレンジ(正直、流れるようなピアノのフレーズとワブルベースのワブル成分だけ取り出したようなSEの組み合わせは常軌を逸していると思う)を披露していたが、「マスカット」でもその手際は健在といったところ。

ゆず「マスカット」
ゆず「チャイナタウン」
ゆず「イマサラ」

 ほか、玉屋2060%の編曲による少しノスタルジックながらキャッチーな「チャイナタウン」なんかもよいけれど、しかしアルバムとしてのボリューム感に対してここまで過剰に過剰が重なると、繰り返しになるけれど、お腹いっぱいというほかない。このアルバム自体が複数の街が組み替えられたひとつの街になぞらえられるのは言い得て妙で、楽しもうと思えば街の中だけであらゆる生活が完結してしまうような、いたれりつくせりのやけに住みよい街のようだ。もう外に出なくてもよくない? と思ってしまうような。と書くとそれはそれでひとつの理想のようではあるけれども、閉塞感も覚える。「イマサラ」で取り入れられる申し訳程度の“インドっぽさ”はその閉塞感の象徴である。“なんでもある”ようでいて、そこにゆずのフィルターがかかった“それっぽいなにか”が並んでいるだけではないか。

 個人的には『YUZUTOWN』はたまーに遊びに行く街くらいの距離感がちょうどよい。あまり長居すると世界が小さくなってしまいそうだ。

■imdkm
1989年生まれ。山形県出身。ライター、批評家。ダンスミュージックを愛好し制作もする立場から、現代のポップミュージックについて考察する。著書に『リズムから考えるJ-POP史』(blueprint、2019年)。ウェブサイト:imdkm.com

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