氷川きよしはシンガーとして新たな地平へと向かうーー”自分らしく”踏み出した21年目のコンサートツアーレポ

氷川きよしコンサートツアーレポ

 そして、Queenの名曲「ボヘミアン・ラプソディ」を日本語訳した歌詞で歌うと、客席のファンは静かに曲に聴き入り、感動的なエンディングとともに盛大な拍手を送った。一昨年公開された映画『ボヘミアン・ラプソディ』を観てこの曲に感銘を受けたという氷川だが、 “新生・氷川きよし”へと生まれ変わろうとするタイミングにこの曲と出会ったことも、ある意味必然だったのかもしれない。それくらい、ストレートな日本語訳詞で歌われるこの曲は今の氷川とマッチしており、いちシンガーとして新たな地平へと向かおうとする姿勢が感じ取れた。

 アンコールでは金色のゴージャスな衣装に身を包んだ氷川が、美空ひばりのカバー曲「歌は我が命」、そして昨年末の紅白でも披露された「大丈夫」を歌唱して2時間以上にわたるライブを締めくくった。全23曲、演歌からポップス、歌謡曲、名曲カバー、そしてロックまで、ジャンルの枠を飛び越えた選曲で一瞬たりとも観る者を飽きさせなかった氷川。ステージに立つ者としてのおもてなし精神が随所に散りばめられていたというのもあるだろうが、やはり歌の力が最大の要因であることは間違いない。

 最後のMCで「今日から21年目、1日1日を大切に感謝して、毎日自分らしく歌を届けていきたい」と伝えていたが、まさにこの「自分らしく」が今の氷川にとって最大のテーマであり、それが今回のバラエティ豊かな選曲につながった……そう考えると、デビュー21年目に突入した2020年の氷川きよしは、我々が想像する以上に画期的なことにチャレンジしてくれるのではないか。そう思えば思うほど、今後ますます目が離せない存在になるはずだ。

 もしこのテキストを読んで、氷川きよしという存在にこれまでとは違った印象を少しでも持ったのなら、悪いことは言わない。騙されたと思って、ぜひ一度ステージに足を運んでみてほしい。きっと、良い意味で氷川きよしの世間一般的パブリックイメージをぶち壊してくれるはずだし、さらに魅力的な姿を目撃することができるはずだから。

■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

■関連リンク
日本コロムビア「氷川きよし」サイト

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