ショパン、谷川俊太郎、大橋トリオ……Kitriが明かす、クラシック×ポップスが共存する音楽の秘密

Kitriが明かす音楽のバックグラウンド

音大受験期に毎日毎晩聴いていた“ショパン”

ーー続いては、マウリツィオ・ポリーニ『ショパン:12の練習曲 作品10/作品25』。これはMonaさんのセレクトですね。

Mona:私が音大受験期に、毎日毎晩聴いていたアルバムです。音大生なら分かると思うのですが、この(フレデリック・)ショパンの練習曲は受験の時に必ず通る、ほぼ全員が弾いたことのある曲集なんですよ。で、面白いのは24曲が様々な調性で作られているところ。同じピアノでも、これだけ響きやムードを変化させられることを勉強させてもらいました。

ーー「別れの曲」や「革命」、「蝶々」など有名な曲も含まれていますね。

Mona:激しい曲もあれば、美しい曲もあって。同じ作曲家が作っているとは思えないくらいバラエティに富んでいますよね。ショパンの曲は、ガラスが割れた瞬間の美しさというか。キラキラしていて、光が刻々と変化する儚さもあって。その中にも豊かさを感じさせる作曲家だなと思います。

ーーHinaさんは、クラシックではどんな曲を聴くのですか?

Hina:最近だと、(ピョートル・)チャイコフスキーをよく聴いています。クリスマスが近づくと「くるみ割り人形」シリーズをひたすら聴いて癒されていますね(笑)。独特の世界観で、ちょっと不思議で奇妙なのだけど、ドキドキする中にもキラッと光る美しさを感じさせてくれるところが気に入っています。

Mona:クラシックは、地域によって曲調に違いがあるのが面白いですね。例えばフランスだと(クロード・)ドビュッシーや(フランシス・)プーランクのように美しい曲を書く人が多くて、ロシアだと(セルゲイ・)プロコフィエフや(ニコライ・)メトネルのようにおどろおどろしい曲を書く人が多い。プロコフィエフには「戦争ソナタ」なんて曲もありますしね。一方ドイツは(ルートヴィヒ・ヴァン・)ベートーヴェンや(ヨハン・ゼバスティアン・)バッハのような、王道でポップスにも通じる分かり易さがあって。

ーーKitriの楽曲のユニークなところは、クラシックの作曲家が用いた技法や表現をポップスのフォーマットに落とし込んでいるところだと思うんですよね。何百年も昔の曲が、現在進行形の音楽の中で蘇っていくような興奮を覚えるというか。先人の音楽が脈々と受け継がれているところにとりわけ魅力を感じます。

Mona:わあ、ありがとうございます! 恐縮ですけど、微力ながら「クラシックも聴いてみようかな」と思ってもらえたら嬉しいです。

(谷川俊太郎の詩は)シンプルですが、必ず惹かれるポイントがある

ーー最後はHinaさんが選んだ谷川俊太郎の『あたしとあなた』です。

Hina:谷川俊太郎さんは大好きな詩人です。初めて知ったのが小学校の教科書だったんですけど、好きになったのは合唱部に入った中高の頃。谷川さんの詩の楽曲を歌うことがすごく多くて。それで改めて読んだ時に、「こんな素敵な詩を歌うことができるなんて嬉しい」と思ったんですよね。大学の卒業論文でも谷川さんについて書いたくらい大ファンです。今日は、数ある詩集の中から特にお気に入りの1冊を持ってきました。

ーー谷川俊太郎さんのどんなところが好きですか?

Hina:言葉遣いがとても綺麗なんです。シンプルですが、必ず惹かれるポイントがあるんですよね。中でも1ページ目にある「あたしとあなた」という詩ですが、1文節ごとに改行してあって。そういうこだわりも素敵だなと思いますし、「世界は言葉から始まっているわ、今も」で終わっているところも、本当に言葉を大事にされている方なんだなと思って感動しました。谷川さんが書かれる「誰もが歌いたくなるような詩」を、私もいつか書けるようになりたいなと常に思っています。

ーーMonaさんは、歌詞の面では誰の影響が強いですか?

Mona:やはり、大橋トリオさんの楽曲を数多く手掛けているmiccaさんの影響は大きいです。あとはスピッツの草野マサムネさんの歌詞が大好きで。美しい中にも毒があり、一読すると何を言っているのか分からないのだけど、なぜか心に残るんですよね。メロディももちろん好きなのですが、歌詞だけを読んでいても面白いなあと思っています。

ーーお二人の歌詞世界が全く違うのも魅力であるし、強みでもありますよね。どちらが歌詞を書くのか、どの段階で決まるのですか?

Mona:Kitriの場合は大抵が曲先なんですけど、まずメロディが浮かんでピアノのアレンジを考えた段階で、何となく「この曲は私だな」「この曲はHinaだな」っていうふうに分けています。素直な言葉を選び、具体的な情景をイメージさせるような物語にしたいときはHina、ちょっと奇妙で不思議なファンタジーにしたいときは(笑)、私が書いています。

Kitri -キトリ- “Akari" Music Video [official] With Subtitles (英語字幕付)

ーー例えば今作『Kitrist』では、「鏡」や「Akari」のどこか冷めた視点が印象的です。特に「Akari」は「無常」がテーマだそうですが、こうしたMonaさんの世界観はどのように育まれてきたのでしょうか。

Mona:昔から、自分の思ったことを表に出すよりは、頭の中に留めて客観的に目の前のことを見つめることが多くて。悲しい気持ち、切ない気持ち、寂しい気持ちをそのまま受け止めてしまうと、すごく感情移入しやすいので、普段から客観的に見ようと努めているのかも知れないですね。それを物語に置き換えたときに、ちょっと「毒」として現れるのかなと自分では思います(笑)。それが、おっしゃるような「冷めた視点」になっているのかもしれません。

Kitri「鏡」

Hina:姉は昔から、自分で物語を作っていたんですよね。絵本とか。ひたすらノートに描いていたりして。

ーー自分の中の感情を、物語に昇華して吐き出すというか。

Mona:そうなのかもしれないです。

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