Alcest、Mamiffer、Leprous……エクストリームシーンから“個”を確立させたHR/HM5枚

Avatarium『The Fear I Long For』

 4組目は女性ボーカリストのジェニー・アン・スミスを擁するスウェーデンのドゥームメタルバンド、Avatariumの4thアルバム『The Fear I Long For』です。Avatariumはもともと、Candlemassのレイフ・エドリング(Ba)が2012年に立ち上げたプロジェクトで、翌2013年にセルフタイトルアルバムでデビュー。その後、レイフは健康上の理由でライブ活動から撤退し、現在はソングライティング面などでバンドに関与しています。ヘヴィな楽曲の数々は、オジー・オズボーン在籍時の初期Black Sabbathが信条としたドゥーミーなサウンドと、ロニー・ジェイムズ・ディオ在籍時のBlack Sabbathが得意としたメロウでドラマチックな正統派ヘヴィメタルがミックスされ、かつモダンな手法で味付けされたものばかり。オールドスクールなスタイルながらも決して古臭く感じられないのは、そういった彼らならではの個性も大きく影響しているのかもしれません。

 今回のアルバムでは過去3作にはなかった新たな試みも用意されています。それはメンバーのマーカス・イデル(Gt)が語るRainbowやLed Zeppelin、The Doorsからの影響が物語っており、本作が単なる“Black Sabbathをルーツとしたドゥームメタルの焼き直し”ではないことは一聴すればご理解いただけるはずです。特にマーカスの奏でるアコースティックギターや、リカード・ニルソン(Key)のオルガンやピアノをフィーチャーしたムーディな味付けは、このアルバムにおける大きなフックとなっており、Avatariumがほかのドゥームメタルバンドとは異なる領域へと一歩踏み込んだことが伺えます。同郷の大先輩でありレイフという共通人物を持つCandlemassも今年、バンドをネクストレベルへと導いた力作『The Door To Doom』をリリースしていますが、こういった温故知新的ジャンルですらモダンな形へ進化を遂げているあたりに、現在のシーンの面白みを感じ取れるのではないでしょうか。

AVATARIUM - Lay Me Down (OFFICIAL LYRIC VIDEO)
Eskimo Callboy『Rehab』

 最後の1枚はドイツ出身のメタルコアバンド、Eskimo Callboyの新作『Rehab』です。彼らは2010年に結成されたキーボーディスト/プログラマーを擁する6人組で、シンセを前面に打ち出したピコリーモ〜エレクトロニコアサウンドと、矢継ぎ早に展開していくパーティ色の強い楽曲が武器となり、ヨーロッパ圏で高い支持を誇ります。特にメジャー進出後の2作(2015年の3rdアルバム『Crystals』、2017年の4thアルバム『The Scene』)はともに本国ドイツでチャート6位まで上昇。2017年に行われたジャパンツアーでは、日本のHER NAME IN BLOODと共演し、話題となりました。

 前作『The Scene』の時点で少しずつシリアスな側面が見え始めた彼らでしたが、続く今作ではその要素が一気に開花。もはや“チャラついたパーティバンド”なんて呼ばせないほどにタフさが目立つ、バンドの新章幕開けを飾るにふさわしい1枚に仕上がっています。メロディセンスにはさらに磨きがかかり、バンドアンサンブルにも“脱メタルコア”的な意識が感じられ、もっとマスに向けた“わかりやすさ”が強まっているのではないでしょうか。さまざまなメディアで、本作に対して“Bring Me The Horizonに対するドイツからの回答”なんて表現が使われていますが、その意図もなんとなく理解できるものがあります。しかし、Bring Me The Horizonがメタルやロックといった大きなジャンルを壊そうとしていたのに対し、このEskimo Callboyの場合はまだラウド&ヘヴィな音楽の枠内で戦っている印象が強いかなと。その中でメインストリームのポップシーンの要素を取り入れていると解釈するのが、今は正しい気がします。もちろん、Bring Me The Horizonのやり方、Eskimo Callboyの戦い方のどちらが正解というわけではないので、それぞれが自分の信じるやり方で進化を続けるのが一番かと。そういった意味では、今回Eskimo Callboyが完成させたクオリティの高い1枚は、まず“チャラい”という偏見を持ったままのラウド系リスナーを唸らせるに十分な快作ではないでしょうか。

Eskimo Callboy ~ Prism (Lyrics Video)
RealSound_ReleaseCuration@TomokazuNishibiro

■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

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