ALIが明かす、『BEASTARS』にも通じるアイデンティティの葛藤と音楽に対するピュアな気持ち

ALIが明かす、アイデンティティの葛藤

「両方の気持ち、わかるぞ」というハーフの葛藤

ーーなるほど。ALIの名前が大きく注目されたのは、アニメ『BEASTARS』の主題歌に「Wild Side」が起用されたことがきっかけだと思います。物語には「種族の違い」が引き起こす差別や偏見が描かれていて、間違いなく人間社会の比喩になっています。

LEO:そうなんです。例えばウサギの中にも模様がある種類には価値があり、白いウサギのことは見下している。それって人種間のいがみ合いを彷彿とさせて。いろいろと置き換えて考えてしまいますね。しかも、途中からハーフの問題なども出てくるんですよ。読み進めれば進むほどALIそのものというか……運命のように感じていますね。

JUA:『BEASTARS』で描かれている「生きづらい世界」、例えば肉食獣が草食獣と本能を隠しながら生きていることとか、みんな公には言えないけど、本心ではちゃんと気づいていることとか、それを現実の社会に投影させて〈censor(検閲)されるかも if I keep singing, keep rapping, keep telling the truth like Malcolm X(マルコムXのように、本当のことを歌ったり、ラップしたり、口に出したりしたら)〉という歌詞にしています。

ALI – Wild Side(Music Video)

ーー皆さんハーフで、それこそ『BEASTARS』で描かれているような差別や偏見に出くわした経験はありますか?

LEO:軽くいじられるくらいだったらいっぱいあるよな?

JUA:そうだね。僕は京都に住んでいた頃は自転車通学だったんですけど、9歳くらいのアフロの子供がチャリンコ乗っている姿などあまり見ないじゃないですか。

LEO:今だったらめちゃくちゃインスタ映えなのに。

JUA:(笑)。だから、差別とかじゃなくて普通に珍しがられただけだと思う。だって、僕も向こうの立場だったら「うお!」って思うだろうし。俺も一度、ターバン巻いたインド人とすれ違った時に、心の中で「あ!」ってなりましたもん(笑)。ただ、フランスに行けば「日本人」と言われるし、カメルーンにいくと「おい、そこの白人!」って言われるし。

LEO:「ハーフあるある」だよね。どこへいっても落ち着かないっていうか。

ZERU:僕はアメリカンスクールに通っていたんですけど、JUAと同じような環境なんですが、日本からは境界線があるんですけど、その中でも白人が多い学校だったんですよ。黒人が3人いるかいないか、って感じだったんですね。小中高で400人くらいいて。その時は僕もまだ若かったから「差別」って捉えてしまったこともあったんですけど、きっと子供だったからですね。大人になって振り返ってみると、JUAの話じゃないけど単に珍しかったんだろうなって。“いじられている”のと“いじめられている”のって、紙一重ではあるけどやっぱり違うじゃないですか。ある意味、自分の捉え方次第のところもあるのかなと思ったりもしました。

JUA:電車に乗っていると、俺の隣には誰も座らないとかもあるね(笑)。

ーーなんなんでしょうね、その心理。 

ZERU:まあ、人の印象って見た目が7割じゃないですか。あとは経験。きっと黒人の横に座った経験がほとんどないわけで(笑)。そうなった時に、あてにするイメージって映画とかなんですよね。それでギャングスターみたいな役を演じてる黒人ばかり見てると、そのイメージが刷り込まれてしまう。それは仕方ないかなとも思っています。

KAHADIO:俺の場合は「おめーらとはちげえぞ」って思っていました。レベルが違うんだぞと。

ZERU:子供の頃からそう思えていたら、それが一番いいと思う。

ーー最近SNSで、色んな価値観が共有されるようになって、今まで大部分の日本人が無意識に行なっていた差別にようやく気づき始めたところはある気がします。例えば「ハーフだから鼻が高くていいね!」みたいな。本人はポジティブなつもりでも、他人の外見について、いきなり何か言及することは失礼にあたるとか、今まであまり省みられてなかった気がします。

KAHADIO:警察がやたら職質してくるのも、外見で判断しているからですよね。昨日もされたし(笑)。

ーーほんとに?

KAHADIO:それに関しては、たまにツイートしたくなりますよ(笑)。「見た目で怪しいと思ったんじゃないよ、今ケータイ見ながら歩いてたでしょ?」なんて警察は言うんだけど、いや絶対それ口実でしょ? って思う。「僕は無害です」ってTシャツにプリントして着たいですよね。まあ、でも俺が警察だったら、声かけるのも無理ないなとも思うんだけど。そう思って我慢してます。

ZERU:そうだね。俺も、もし自分が警察だったら俺のこと止めるしな。

LEO:これがハーフの葛藤なんですよ(笑)。「両方の気持ち、わかるぞ」っていう。

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