BABYMETAL、米ビルボード躍進は現地レーベル設立の成果 最新作に感じた原点回帰と冒険心

原点回帰と冒険心の“二面性”を持つ『METAL GALAXY』

 さて、いよいよアルバムの核心に迫っていきたい。通常盤はディスク2枚組の構成で、収録数は全16曲。そのうち、「Elevator Girl」「PA PA YA!!(feat.F.HERO)」「Starlight」は音源のみデジタルで先行配信されており、同じくすでにリリースされていた「Distortion」は、Arch Enemyのボーカリストであるアリッサ・ホワイト=グラズをフィーチャリングゲストに迎え新録された。

 本作の土台にあるのは「メタルの銀河を旅する」というテーマ。かつて“アイドルとメタルの融合”を掲げて結成されたBABYMETALであるが、メタルというジャンルをベースにしつつも、これまで以上にさまざまなジャンルとのコラボレーションに取り組んでいる。

 しかし、新しさを味わえる一方で、不思議と込み上げてきたのは“懐かしさ”という感情。アルバムの入り口となる1曲目の「FUTURE METAL」を聴くと“これから何が起こるんだろう”とその世界観に引き込まれそうになるが、トラックを進めていくにつれて、どこか1stアルバム『BABYMETAL』へと“原点回帰”したかのような感覚に陥るのだ。

 ディスク1の2曲目にあたるB’zのTak Matsumotoが参加した「DA DA DANCE」はまさに典型的な一曲で、ユーロビート調のメロディは、1stアルバムに収録された「いいね!」とイメージが重なる。ライブで行われた前者のパフォーマンスをみると、サビではメンバーたちによるバブル時代の“ジュリアナ”を彷彿とさせる片手を左右に振る仕草も目立つが、レーザービームが飛び交う会場で披露されていた後者のように、イントロからさながら“ディスコフロア”に切り替わるかのような展開も踏襲されているように映る。

 ディスク2の4曲目にあたる全編ラップで構成された「BxMxC」も耳に残るのは、攻撃的な歌詞とメロディの途中で流れる“三三七拍子”のリズム。前作『METAL RESISTANCE』に収録されていたYUIMETALとMOAMETALのユニット曲である「GJ!」のイントロをオマージュしているかのような感覚を覚える。

 また、曲中のフレーズにも“原点回帰”の色は残されていて、ディスク1の7曲目にある「↑↓←→BBAB」には日本に古くから伝わるわらべうた「ずいずいずっころばし」が用いられているが、1stアルバムに収録された“かくれんぼ”をテーマとする「Catch me if you can」と似た空気感を匂わせる言葉遊びは、どこかかつてのBABYMETALを彷彿とさせるものがある。

 一方で、彼女たちの進化を感じられる曲もあり、先行配信されていた「PA PA YA!!(feat.F.HERO)」は、曲中でみせるSU-METALの力強い“巻き舌”に耳を傾けるだけでも、彼女の持つ表現力の幅広さを味わえる。また、昨年の変則7人体制による“ダークサイド”時代からライブですでに披露されていた「Kagerou」や、アメリカのプログレッシブメタルバンド・Polyphiaのギタリストであるティム・ヘンソンとスコット・ルペイジを招いた「Brand New Day (feat. Tim Henson and Scott LePage)」も、ボーカリストとしての彼女の真価がにじむ曲だ。

 さらに、他ジャンルとの融合を試みた、チャレンジングな作品として特筆すべきなのがディスク1の4曲目にあたる「Shanti Shanti Shanti」だ。タイトルはサンスクリット語で“平和”を意味し、曲中でもヒンディー語で“いいね”を意味する〈Accha Accha〉のフレーズが用いられているが、メタルにインドの民族音楽をかけ合わせた冒険的な一曲。

 スウェーデンのパワーメタルバンド・Sabatonのボーカリストであるヨアキム・ブローデンとコラボレーションした、ディスク1の5曲目「Oh! MAJINAI (feat. Joakim Brodén)」もしかりで、めまぐるしいポルカ調のリズムにメタルをかけ合わせるという試みに挑戦している。

 そして、一連の楽曲を経てアルバムはディスク2の8曲目「Arkadia」で終結。タイトルの“Arkadia”は、古代ギリシア語で“理想郷”を意味する言葉だ。鞘師里保、岡崎百々子、藤平華乃ら“アベンジャーズ”を迎えてライブを行った今年、広大な銀河にちらばっていた“ジャンル”という光を一つひとつ拾い集めた先で、新たな思いを胸になおも未来を切り開こうとするSU-METALとMOAMETALの決意がにじむような一曲で締めくくられている。

 最新アルバムをひっさげて、11月の『METAL GALAXY WRLD TOUR IN JAPAN』でいよいよ日本への凱旋を果たすBABYMETAL。ライブでいまだ披露されていない曲もあり、どのようなパフォーマンスを繰り広げてくれるかも大いに期待したいところだ。

■カネコシュウヘイ
編集者/ライター/デザイナー。アイドルをはじめ、エンタメ分野での取材や原稿執筆を中心に活動。ライブなどの現場が好きで、月に約数万円はアイドルへ主に費やしている。単著に『BABYMETAL 追っかけ日記』。執筆媒体はWeb『ダ・ヴィンチニュース』『クランクイン!』『ウレぴあ総研』、雑誌『日経エンタテインメント!』など。

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