ユナイト、DIMLIM、ラッコ、nurié……既存の価値観広げる“ネオ・オサレ系”なバンド

ラッコ

 DIMLIMがジェントという00年代以降のメタルで模索する方向性を、90年代以前のメタルで行ったのが、ラッコが2017年に発表した『弱肉教職』だ。本作は、ハードロック/スラッシュメタルに通じる苛烈なギターテクニックと、フュージョンの円熟した演奏がひとつになっている。ボーカリストのてんてん(現・平 一洋)は、2001年から2003年まで餞ハナむケ。として活動していた。餞ハナむケ。は、BAROQUEとともに“オサレ系”して捉えられていたバンドだ。そういう意味でもラッコはオサレ系の系譜にある。残念ながら2019年5月に活動を休止している。

ラッコ『弱肉教職』3.化学(色彩皆無)

nurié

 2019年に始動したnuriéがデビュー曲として選んだ「モノローグ」は、フュージョン系のカッティングに、ラップ/ポエトリーのようなボーカルを乗せ、現代都市生活の感傷を描く曲だ。ほかの曲ではフュージョン要素は少ないものの、RADWIMPSやボーカロイドなどに通じる表現も目立っており、いわゆるヴィジュアル系とは少し異なる音楽性だ。当時のオサレ系には「ヴィジュアル系らしくない」という反応が少なくなかったが、彼らもまた、良い意味で 「らしくない」といえる。

nurié (ヌリエ) 1st Single『モノローグ』MV FULL

 以上4組を今回“ネオ・オサレ系”としてまとめたものの、それぞれ基本となる音楽性は大きく異なる。“オサレ”要素は、彼らの多様な音楽性の一部だ。彼らは、バンドの表現をさらに深めるためにそうした要素を昇華している。

 さて、オサレ系は、ミクスチャーやポップロックへと音楽性の幅を広げながら、2000年代前半をピークとして勢いを失っていった。一方で、00年代中後期のネオヴィジュアル系ムーヴメントの中心にいたアリス九號.やアンティック-珈琲店-、the GazettE(当時はガゼット)、シド、NIGHTMARE(ナイトメア)らは、バンド名からわかるように、いずれも“オサレ系”以降の価値観をもっていた。とくにシドは、ブラックミュージック要素をポップに仕上げる名手だし、the GazettEにもそうした曲は多い。さらに、10年代に増えてきた、R指定や0.1gの誤算が得意とする、いわゆる“メンヘラ表現”も、ファンに寄り添うようなオサレ系の歌詞が先鋭化したものとも取れる。オサレ系そのものは時代とともに消えていったが、その価値観は現在のヴィジュアル系に根づいている。

 であれば、オサレ系は“新しいヴィジュアル系”をもたらし、90年代のブーム後のシーン再興の基盤となったムーヴメントだったとも取れる。その新しさと変革に対するファンの戸惑いが、“オサレ”という、揶揄とも取れる俗語表現に繋がったのだ。ネオ・オサレ系も、単なる音楽的共通点を意図した言葉ではない。その根底にある、既存の価値観を拡張しうる彼らの発展的な意志を表しているのだ。

■エド
音楽ブログDecayed Sun Recordsの管理人でバンドマン。ヴィジュアル系とメタルをよく聴く。

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