“キムタク”にしか出せない存在感とは何なのか 木村拓哉が持つ“スター性”と“アイドル的身近さ”

 木村拓哉が“キムタク”として独特の存在感を発揮し続けている理由も、結局そこにあるのだろう。紛れもなく時代を象徴するアイコン的スターである一方で、アイドル的な身近さを感じさせる「素」の部分が突然顔をのぞかせる。そんな矛盾した二面性が、あたかも独立したジャンルのような“キムタク”を形作っている。

 先日放送された『関口宏の東京フレンドパーク 木村拓哉VS福士蒼汰VS波瑠 3ドラマ主演が大激突!』(TBS系)でこんな場面があった。ハイパーホッケーの対戦相手であるホンジャマカの恵俊彰が、NBAにドラフト指名された話題の八村塁に扮した巨大な着ぐるみで登場。すると木村拓哉は「すげえ」「やべえ」と言いながら、スタジオ観覧の女性が持っているスマホで写真を撮り始めた。その思わず「素」がこぼれ出た振る舞いには、まさにアイドル・木村拓哉がほとばしっていた。

 プレーヤーであることは、当然俳優業に限定されない。歌手、バラエティ、ラジオ、さらにネット配信番組といった分野それぞれに異なる「素」の魅力がある。木村拓哉というタレントは、「素」の多面体そのものだ。

 こうした活動のスタイルは、もちろんいまに始まったことではなくSMAP時代からのものでもある。その点では、木村拓哉は驚くほど変わっていない。

 だがSMAP解散から3年近くになろうとするいま、少しずつ精神的余裕が出てきているようにも見受けられる。

 たとえばそれは、歌手活動の再開などから特に感じられるところだ。来年1月発売のアルバムタイトルが『Go with the Flow』。がむしゃらにではなく、流れに身を任せながら進もうというメッセージを感じさせるタイトルだ。一部公開されたMVのメイキングを見ても、スタッフと談笑する姿とともに、ギターやサーフィン、そしてひとりでたき火をしながらゆったりとした時の流れを心から楽しんでいるような木村拓哉の姿がとても印象的だ。

 彼は、「感じ方が似てると思うのは、音楽をやってる人間なんだ。それは役者やってる人間と似てるようで微妙に違う」と語ったことがある(木村拓哉『開放区』)。その意味では、木村拓哉にとって音楽には特別な思い入れがあるものに違いない。確かに彼が俳優として求めているものには、音楽のライブパフォーマンスに近いものが感じられる。音楽には、決まった役のあるドラマや映画と違って「素」に近い部分でプレーできるという利点があるのかもしれない。

 「木村拓哉とはなんなのか?」とかつて親友から問われたとき、彼が出した答えは「道」というものだった。高速道路のように目的地にとにかく早く着くための道ではなく、ただの道。だが、通過点にいい景色があるので自然に通りたくなる道(同書)。いま木村拓哉は、そんな“いい景色”をもう一度作り出す旅に出ようとしているのだろう。

■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『SMAPと平成ニッポン 不安の時代のエンターテインメント』(光文社新書)、『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』(双葉社)、『木村拓哉という生き方』(青弓社)、『中居正広という生き方』(青弓社)、『社会は笑う・増補版』(青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。

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