『シャーロック』主題歌「Shelly」から読み取る、DEAN FUJIOKAとR&Bの可能性

 もっとも、DEAN FUJIOKAはR&Bに限らず、あらゆるダンスミュージックを意欲的に体現してきた男でもある。2016年に発売された1stアルバム『Cycle』こそ、ハードロックに振り切ったりとなかなかカオスな様相だったが、2ndアルバム『History In The Making』をリリースした2019年初頭には、オントレンドなポップミュージックを誠実に消化するアティテュードがすっかり定着。例えば、自身主演のドラマ『今からあなたを脅迫します』(日本テレビ系)の主題歌に起用されるなどメディア露出度も高かった「Let it snow!」では、フューチャーベースの躍動感に煌びやかなメロディを掛け合わせ、同じく主演ドラマ『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』(フジテレビ系)主題歌の「Echo」ではロンドンを中心に盛り上がりを見せる新興ジャンル、Waveを採用。気高き世界観を持ち前のボーカルも駆使して色香たっぷりに築き上げた。ベーシックに歌いなぞるだけの体裁ではなく、作詞作曲やトラックメイキングの技法、趣味嗜好で得たノウハウなどを用いて、自ら攻めのスタイルで音楽シーンに切り込んでいく兼業役者は、後にも先にも彼ぐらいなものだろう。

 『History In The Making』では当のR&B/ソウルミュージックにまつわるアプローチも充実しており、ロートーンの歌声で魅せるシックなオルタナティブR&B「Speechless」や、彼にしては珍しい全日本語詞によるブルース「Fukushima」、ディスコティックなノリを敷いた清涼感溢れる「Sakura」など、この一作だけでもDEAN FUJIOKAの豊かな才能を十分に窺い知ることが出来る。さらに驚くべきは、これだけワールドスタンダードな音作りに磨きをかけていながら、DEANとコライト(共同制作)をした人物の多くが日本のクリエイターであるということ。先ほど紹介した楽曲で見てみると、「Speechless」は安室奈美恵の「Hero」を今井了介と手がけたことでも名高いSunny Boyが、「Fukushima」はアーシーなアレンジに定評があるorigami PRODUCTIONSのmabanuaが、「Sakura」はBTSの楽曲などで実際に世界的な活躍を見せるUTAがそれぞれ珠玉のクオリティを提供している。ドメスティックな布陣によって、世界に通用する作品を生み出す。その自然発生的な気概こそが、先鋭的ながら馴染みやすいという絶妙な耳当たりを実現させ、DEANを今日の”無敵フェーズ”へと向かわせたのだと筆者は思う(ちなみに「Shelly」のクレジットにはUTAの名前が。彼の柔軟なスキルに、またしても一本取られる格好となった)。

 なお、『シャーロック』の劇中には「Shelly」のほか、「Searching For The Ghost」なるオープニングテーマも用意されている。ドラマの映像を見る限り、「Searching〜」は芳しい癒し成分が売りの「Shelly」とは対照的に、シャーロックのダークサイドが見え隠れするエッジーなアップチューンに仕上がっている様子。本稿を執筆している時点で全容は掴めていないが、そこはDEAN FUJIOKA。きっとまた新たな領域を切り開き、我々を楽しませてくれるに違いない。

■白原ケンイチ
日本のR&B作品をはじめ、新旧問わず良質な歌ものが大好物の音楽ライター。当該ジャンルを取り上げるサイトの運営、コンピレーションCDのプロデュース、イベント主催の経験などを経て、現在はささやかに音楽ライフを満喫する日々。Twitter

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