椎名林檎、『時効警察』ヒロイン 三日月しずかをどう描いた? 主題歌「公然の秘密」を分析

 三日月の宝物は、第1シリーズの1話でじゃんけんに負けた霧山が遊びで書いた婚姻届だ。霧山に同行する捜査を一種のデートだと考えている“妄想癖”のある三日月は、その婚姻届に自分の名前を書いて眺め、霧山との未来に思いを馳せる。物語にも度々登場し、『時効警察・復活スペシャル』でも三日月は秘密の宝箱から婚姻届を再び取り出した。千載一遇のチャンスに心躍る彼女は自分の判子を押そうとするが、判子は又来(ふせえり)によってシナモンスティックに変えられていたのだ。この一場面は、2番のサビ終わり〈悔いを残すラストノートああスパイシーね/もどかしいシナモン ほろ苦いのよ〉という歌詞とリンクしている。ラストノートとは香水をつけ、2時間~半日程経った後の香りのこと。どれだけ時間が経過しても諦めることのできない霧山への恋がなかなか発展せず、もどかしさを抱えた三日月の心情がフレーズに表れているのではないだろうか。

 また、三日月は少々嫉妬深い一面もある。例えば、第2シリーズに登場した真加出(早織)に対してライバル心を燃やし、彼女が霧山と話していたらヤキモチを焼く場面もあった。さらに、新しい登場人物である新人刑事・彩雲真空(吉岡里帆)の存在も三日月の嫉妬心に火をつけそうな予感だ。表立って女性にモテるタイプではない霧山だが、何かと無防備な彼に三日月は内心ハラハラ。そんな彼女の性格も椎名林檎は見逃さず、歌詞の最後に〈見付かんないで誰にも…フェロモン/遍く振り撒いて皆を誘き寄せないで/いつも見張り続けて独り占めしたい〉とストレートに表現した。

 以上のように「公然の秘密」は、恋に翻弄される三日月の心情を凝縮した形で綴られている。三日月は今作でアラフォーという設定。しかし、歌詞からも想像できるように恋に関しては少女のような姿を見せる。そんな彼女の恋は今作でようやく実を結ぶことになるのだろうか。今後の展開に注目していきたい。

■苫とり子
2019年春からフリーライターに。
主にコラムやライブ・イベントのレポートを執筆しています。
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