浜端ヨウヘイ×寺岡呼人が語り合う、“詞先”の醍醐味「無数のエピソードが時代になっていく」

浜端×寺岡が語り合う“詞先”の醍醐味

この先、自分がどんな曲を作れるのかも楽しみ(浜端ヨウヘイ)

ーー2ndシングルの表題曲「もうすぐ夏が終わる」は、日本的な情緒が色濃く出ている曲ですね。

寺岡:日本的なスタンダードということでは、「カーテンコール」と通じていると思います。

浜端:季節感のある曲って、自分ではほぼ書いたことがなかったんです。しかも「もうすぐ夏が終わる」は、夏の終わりというピンポイントな期間だし、「カーテンコール」以上にディスカッションしながら作っていきました。メロディや歌い方についても、「ニッポンの夏に寄せるなら、こういう感じがいいんじゃないか」とアドバイスをもらって。

寺岡:浜端くんは引き出しが多いから、ぜんぜんラクでしたけどね。

浜端:歌詞が届いて、メロディを付けてお戻しすると、すぐに「OKです」ってなることもあって。「ホンマに?」と思ったりもしました(笑)。

寺岡:メロディが付いた時点で、完成図が見えることが多かったんですよ。いまのJ-POPはまずメロディとアレンジを決めてから、最後に歌詞を乗せることが多いと思うんですけど、今回はまったく違っていたので。

ーー呼人さんは以前から“詞先”という手法を取り入れていますが、やはり尽きないおもしろさがあるんでしょうか?

寺岡:もちろん人によって違うんですけど、浜端くんの場合は、どんなタイプの歌詞を投げても、しっかり打ち返してくれるんですよ。それは作詞家冥利に尽きますね。詞先って難しいと思うんですけどね。特にシンガーソングライターが人の書いた歌詞にメロディを付けるのは大変じゃないかな。

浜端:人からもよく「詞先って難しくない?」って聞かれます。でも、僕はそっちのほうが自然なんですよね。自分で曲を書くときも、まず歌いたいことがあって、その言葉に対するメロディを決めるところからはじめるので。言葉とメロディが仲良くしてないとダメだと思うし、そのやり方しか知らないんですよ。逆にメロディが先に決まってると、言葉を削ったり足したり、言い換えなくちゃいけないこともあると思うし。今回のプロジェクトでも、呼人さんから届いた歌詞はなるべく変えずに歌いたかったんですよね。

浜端ヨウヘイ「もうすぐ夏が終わる」Music Video Full ver.

ーーミニアルバムの新曲についても聞かせてください。まずは「月の瀬橋」。おふたりが出会った高知を舞台にした曲ですが、これはどんなテーマで制作されたんですか?

浜端:呼人さんと回らせてもらった2マンツアーの初日が高知だったんですね。(浜端が所属する)オフィスオーガスタの創立者・森川欣信最高顧問も観に来ていたんですが、森川さんは高知の出身で、打ち上げの席で「地元に月の瀬橋という橋があって、子どもの頃は木製だったその橋からよく川に飛び込んで遊んだりして〜」という話をしていて。そしたら次の日、岡山までの電車のなかで呼人さんが、「“月の瀬橋”をテーマに歌詞を書いたんだけど、どうかな?」って。 

寺岡:電車で書きました(笑)。

浜端:その歌詞に曲を付けて、ツアーの後半でもうさっそく披露して。それが「月の瀬橋」ですね。

寺岡:橋の名前の由来はわからないですけど、昔の人たちが「ここに来れば、月の瀬まで行ける」と思っていたのかもしれないし、素敵なネーミングだなと思って。そこから想像を膨らませて書いた歌詞ですね。歌詞のヒントはどこにあるかわからないし、おかげさまで、お酒を飲んでも記憶がなくならいほうなので(笑)。

ーーこの曲が「今宵、月の瀬で逢いましょう」というミニアルバムのタイトルにつながった?

寺岡:そうですね。ユーミン(松任谷由実)の「昨晩お会いしましょう」だったり、中島みゆきさんの「わたしの子供になりなさい」もそうですけど、そういう口調のタイトルがいいなと思ったので。

ーー「証言台」は往年のフォークソングを想起させる楽曲。男性のモノローグによる曲ですが、ひとつの物語を聞いているような味わいがあります。

寺岡:「カーテンコール」と同時期に書いたんですけど、「彼女と別れた男性が、証言台で独白するっておもしろくない?」というところから始まって。他の曲もそうですけど、思い付きですよね(笑)。〈お集まりのみなさん そして裁判長〉からはじまるんですけど、これこそ詞先の特徴が出てますよね。メロディが先にあったら、こういう歌詞は乗せられないと思うので。

浜端:しかも、自分だったら絶対に書けないです(笑)。じつはめっちゃ手ごわかったんですよ、この曲。冒頭とサビでリズムも違うし、僕のなかではかなりの大作ですね。自分の気持ちを歌った曲ではないからこそ、より“モノ作りをしている”という感覚でやれたというか。「証言台」を作った頃から、呼人さんから届いた歌詞にメロディを付けて打ち返すスピードが上がった気がします。

寺岡:そうかもね。僕もしっかり字数を揃えるようになったし。浜端くんはピアノも上手だし、いろんな方向から返してくれるのもいいんですよね。

浜端:ありがとうございます。ただ、僕がやってきたことは全部、我流なんですよ。それこそ呼人さんが作ってこられた曲を聴いて育った世代なんですが、どこにルーツがあるかもよくわからないし、無手勝流というか、曲作りもずっと一人でやってきたので。だから今回の制作は、学ぶことばかりでした。僕が手癖で作ったコード進行に対して、「Bメロはこのコードにしてみたらどう?」みたいなアドバイスもたくさんいただいて。「そのコード、どうやって押さえるんですか?」ということもあったけど(笑)、自分がやってきたことをいい意味で崩して、新たに積み上げるような感覚でしたね。

ーー「グビッ!〜はたらき蜂賛歌〜」は、“とりあえず飲んで、明日もなんとかがんばりましょう”という働く男たちに対する応援歌。この曲も浜端さんのキャラクターにぴったりだなと。

浜端:「酒飲みそう」ってことですか(笑)。

寺岡:(笑)。昭和30年代の高度成長期のサラリーマンは、クレイジーキャッツの歌を聞いて「明日もがんばろう」と元気をもらってたと思うんです。いまの時代はそういう歌がないし、それを浜端くんに歌ってもらったらどうだろう? と。僕のなかではかなり壮大なイメージがあるんですよね。“2(拍目)、4(拍目)”で手拍子してもらって、何なら“手もみ”も入れて(笑)。ライブでも盛り上がると思いますね。

浜端:まだライブで歌ってないんですけど、鉄板ソングにしたいです。

寺岡:ほかの曲もそうなんですけど、このプロジェクトは基本的にテーマソングを作ってる感覚があるんですよね。浜端くんにこういう曲を歌ってもらって、こういう人たちに感動してもらいたいっていう。

ーー「かけら」にはどんなテーマがあるんですか?

寺岡:きっかけは、Netflixの『OUR PLANET 私たちの地球』ですね。世界中の自然や動物をテーマにしたドキュメンタリーなんですが、それをずっと見ていて。“アフリカの砂漠の砂が舞い上がって、それが海に届いて、プランクトンが発生して、そこにクジラが集まってきて”とか、とにかくすごい映像だし、「ここと僕等はつながってるんだな」という気持ちになれて。そういう壮大な歌をこの男に歌わせたいというのが、「かけら」の始まりですね。歌詞を送ったときも、「壮大な曲にしてほしい」という注文を付けて。

浜端:オーダーをいただきました(笑)。この曲がいちばん好きなんですよ、個人的には。こういう土着的な感じ、大陸感がある曲が好きっていうのもあるし、自分の自身の思いも重ねられるというか。僕は30代になってから東京に来たんですけど、ここ数年は海外に連れていってもらう機会も増えて。それまでは関西しか知らなかったから、視界が一気に広がったんですよね。「かけら」の歌詞はまさにそういう内容だし、思い入れも強いです。いいことも悪いこともあるけど、ぜんぶ繋がって、いまに帰結しているというか。

ーー寺岡さんとの制作を通して、得られたものは非常に大きいですね。

浜端:そうですね。圧倒的に幅が広がったし、自分の引き出しを増やしてもらったというか。さっきも言ったように、ずっと一人で曲作りをやってきたので、師匠みたいな人はいなかったんですよ。呼人さんにはお手本を示してくださるし、制作も勉強になることばかりで。それを経てこの先、自分がどんな曲を作れるのかも楽しみですね。

寺岡:これまでに浜端くんが作ってきた曲、この1年の間に僕と一緒に作った曲が合流することで、2020年以降の音楽活動に化学変化を起こしてほしいなと思います。ミニアルバムの曲をライブでやって、お客さんと触れ合うことでもっと成長できるだろうし。

ーー詞先という方法の深さと可能性を実感できるのも、このプロジェクトの収穫だと思います。

寺岡:これからの時代に必要なのは、ファンタジーとリアルの使い分けだと思ってるんですよ。浜端くんはもしかしたら「俺、こういう感じじゃないな」と思いながら曲を作ってたかもしれないけど、ファンタジーとリアルを行ったり来たりできる人であってほしいという気持ちもあって。“これが自分の日常です”という歌ではなくて、“こんなこと歌ってるけど、本当なのかな”“もしかしたら、そうなのかも”と思われるような歌を歌うことで、浜端ヨウヘイのアーティスト像が作られていくんじゃないかなと思うので。

(取材・文=森朋之/写真=三橋優美子)

■リリース情報
浜端ヨウヘイ
『今宵、月の瀬で逢いましょう』
発売:2019年10月23日(水)
価格:¥1,818(税抜)
【収録曲】
1. 月の瀬橋
2. もうすぐ夏が終わる
3. グビッ!~はたらき蜂賛歌~
4. 証言台
5. カーテンコール(弾き語り)
6. かけら

寺岡呼人
『NO GUARD』
発売:2019年11月27日
価格:¥3,000(税抜)

浜端ヨウヘイ オフィシャルサイト
寺岡呼人 オフィシャルサイト

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