エド・シーラン、勢い止まぬ『No.6 コラボレーションズ・プロジェクト』音楽ライター2氏が全曲解説

エド・シーラン、コラボアルバム全曲レビュー

M-9「フィールズ(feat.ヤング・サグ&J・ハス)」

 アトランタ出身のソングライター/ラッパーのヤング・サグはチェイルディッシュ・ガンビーノの「ディス・イズ・アメリカ」にバックコーラスとして参加。ロンドン出身のラッパー/シンガーであるJ・ハスは、UKのグライムシーンを牽引するストームジーのデビュー作『ギャング・サイン&プレイヤー』に参加。US、UKのヒップホップをリードする2人を招いたこの曲は、ロンドン(グライム)とアトランタ(トラップ)の土地の匂いが混ざり合う、ハイブリッドな楽曲に仕上がっている。両者の特徴をしっかりと引き出しながら、斬新なトラックに導くエドのプロデュースセンスはまさに絶品。魅力的なコラボレーション楽曲が揃った本作のなかでも、特に注目すべきナンバーだろう。イカした女の子にノックアウトされ、“人生をかけて待っていた気持ち(Feels)が、いまここに!”というリリックに濃密なグルーヴを与えるラップのテクニックにも刮目すべし。(森朋之)

M-10「プット・イット・オール・オン・ミー(feat. エラ・メイ)」

 アイリッシュの父とジャマイカ系の母のもとに生まれ、エラ・フィッツジェラルドにちなんで命名されたロンドン出身のシンガー、エラ・メイ。2017年にはケラーニのツアーでサポートアクトを務め、昨年はジェイ・Z&ビヨンセの『On The Run II』ツアーLA公演や、ブルーノ・マーズ『24K MAGIC』ツアーのサポートアクトに大抜擢。同年リリースされた1stアルバム『エラ・メイ』はわずか2週間足らずでゴールドセールスを記録、今年のグラミーでも主要部門を含む2部門にノミネート(最優秀R&B楽曲賞を受賞)するなど、今や押しも押されもせぬ存在となった彼女とのコラボは、たった3つのコードを延々と繰り返しながら、徐々に盛り上がっていくメロウなR&Bチューン。透き通るようなファルセットと、ゴスペルにも通じるパワフルな地声を巧みに使い分けるエラと、彼女を引き立てながら美しいハーモニーを重ねるエドのパフォーマンスが絶品だ。

M-11「ナッシング・オン・ユー(feat.パウロ・ロンドラ&デイヴ)」

 エミネムの映画『8マイル』をきっかけにヒップホップに傾倒した、アルゼンチン出身、1998年生まれ(現在21歳)の気鋭のラッパー、パウロ・ロンドラ、そして、悪名高きサウスロンドンのストリータムで育ち、音楽的素養と知性を合わせ持ったデイヴを召喚した「ナッシング・オン・ユー」は、このアルバムのハイブリッド性を象徴するナンバーだ。ラテントラップ系のトラック、それぞれの生まれ育ちと音楽的背景を反映したラップ、“きみは最高で、しかも何も着ていない”というラインに象徴されるセクシー全開のリリックのバランスも最高。魅力的な女性との一夜をテーマに3人がリリックを書くというオーソドックスなスタイルの楽曲だが、それぞれのルーツとバックグランドが有機的絡み合い、音楽的な多様性をたっぷりと感じることができる。(森朋之)

Ed Sheeran - Nothing On You (feat. Paulo Londra & Dave) [SBTV]

M-12「アイ・ドント・ウォント・ユア・マネー(feat. H.E.R.)」

 2016年にEP『H.E.R. Vol. 1』でデビューし、翌年にリリースされた1stアルバム『H.E.R.』で全米R&Bチャート8位を記録。ストリーミング数10億回を超え、今年のグラミー賞では主要2部門を含む5部門にノミネートされた、現在22歳のR&BシンガーH.E.R.。ファンキーなエレキギターに導かれ、地を這うようなシンセベースとチープなハンドクラップが絡み合う中、憂いを帯びた彼女のソウルフルなボーカルが舞う。音数を削ぎ落としたシンプルな前半から徐々に盛り上がり、中盤では高らかに鳴り響くブラスセクションと、何声にも重なっていく彼女のコーラスが壁のようなサウンドスケープを構築する。が、曲のエンディングまで終始クールネスをたたえているのは、抑制の効いたエドのメロディラインによるところが多い。バーストしそうなギリギリのところでステイさせるアレンジセンスが、繰り返し聴きたくなるこの曲の中毒性を担っているのは間違いないだろう。(黒田隆憲)

M-13「1000ナイツ(feat.ミーク・ミル&エイ・ブギー・ウィット・ダ・フーディ)」

 シックな手触りのビート、酩酊感をもたらすシンセのエフェクトを軸にしたトラックとともに綴られるのは、ニューヨークからロンドンへ、毎日違う街で続けられるツアーのなかで生まれる感情。眠れないまま移動を繰り返し、スタジアムでライブをやって、疲労困憊で、どれだけ稼いだかもわからない……というラインを淡々と、しかし、どこまでも快楽的なフロウによって描き出している。〈ME and Meek and Ed Sheeran、Just like the Beatles〉というフレーズもキャッチーだ。服役後、最初のアルバム『チャンピオンシップス』(2018年)が全米1位を記録したミーク・ミル、2ndアルバム『フーディ・シーズン』をヒットさせたブロンクス出身の23歳の新鋭ラッパーエイ・ブギー・ウィット・ダ・フーディによるバッドボーイオーラたっぷりのラップもきわめて刺激的。(森朋之)

M-14「ウェイ・トゥ・ブレイク・マイ・ハート(feat. スクリレックス)」

 本アルバム中、最も美しいメロディを紡ぎあげたのは意外にもスクリレックス。Aメロ、Bメロでは音数の少ないメロディが循環コードの上でリフレインされ、その切ない響きが胸をかきむしる。そしてサビになると、駆け上がるようなキャッチーなメロディの応酬。その一方で、コーラスをたっぷりかけたノスタルジックなギターカッティングと、アグレッシブなキック&ベースが鮮やかなコントラストを生み出すあたり、やはりスクリレックスの真骨頂といったところだ。実はエドとスクリレックスは今から5年前、アッシャーも交えて一度コラボを試みたことがある。結局その曲は今もお蔵入りとなったままだが、2人の交流はずっと続いていたという。2017年にシカゴ公演を行なった際には、スクリレックスと共に地元のクラブを訪れたエドが、飛び入りのDJ&ダンスを披露した姿も目撃されている。(黒田隆憲)

M-15「ブロウ(with ブルーノ・マーズ&クリス・ステイプルトン)」

 ネオソウル、ディスコリバイバルのムーブメントとともに世界的スターに上り詰めたブルーノ・マーズ、ケンタッキー州出身で、ジャスティン・ティンバーレイクとの共演でも知られるカントリー系シンガーソングライター、クリス・ステイプルトン。まさに異色の2人だが、こういうジャンルを超越したバランス感覚こそが、エド・シーランの真骨頂であり、このアルバムの核になっていると言えるだろう。プロデュースはブルーノ・マーズが担当。豪快なギターリフ、ブルースを経由した爆発的なバンドサウンドは、まるで全盛期のLed Zeppelinのよう。王道のハードロックのなかで3人は、エモーショナルなシャウトを響かせ、アルバムのエンディングを飾っている。“狙いを定めて、君を打ち抜いてやる”的なマッチョイズム全開の歌詞も、この大仰なサウンドにぴったりだ。(森朋之)

■総括

 YouTubeにアップされているラジオDJのシャーラメイン・ザ・ゴッドのインタビューのなかでエド・シーランは、「君が最初に磨き上げたものは?」という質問に対し、「性格だよ」と即答している。「だって、何の魅力もない赤毛のジンジャーのちびっ子にできることなんて何があるんだ?」「面白くて好感の持てる人間になることしかできないさ」と。

 まずは魅力のある人間になるべきだという考え方は、彼の音楽活動の根底を支えているのだと思う。自分自身の音楽的ルーツ(フォーク、ロックンロール、ヒップホップ)を大事しながら、興味を惹かれた音楽に最大限のリスペクトを持ち、オープンマインドで幅広いアーティストとつながるーーそのスタンスから導かれた最大の成果が、本作『No.6 コラボレーションズ・プロジェクト』だろう。音楽的なスキルと独創性、幅広い音楽に対する理解の深さはもちろんだが、“エドと一緒にやりたい”と思わせる人柄こそが、彼の才能の本質。東京ドーム公演での徹底したサービスぶりからもわかるように、エドはとにかく“いいヤツ”なのだ。(森朋之)

『No.6 Collaborations Project / No.6 コラボレーションズ・プロジェクト』

■リリース情報
No.6 Collaborations Project / No.6 コラボレーションズ・プロジェクト
発売:2019年7月12日(水)
価格:¥1,980(税抜)

オフィシャルサイト

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる