チャンス、リル・ナズ・X、リル・テッカ…ネット戦略で成功した若手ヒップホップアーティスト5選

リル・ナズ・X『7』

 そしてお次は、全米19週連続首位という輝かしい新記録を樹立したリル・ナズ・XのデビューEP『7』を。彼のヒットシングル「Old Town Road」についてはすでにご存知の方も多いでしょう。TikTokを味方に付け、ネット上でのミームを拡散することによって雪だるま式に人気、そしてストリーミングサービスでの再生回数を増やしていったリル・ナズ・X。幼児から大人、そしてネット上からストリートまでを巻き込んで大きな“現象”となったのです。そんな人気絶頂のリル・ナズ・Xがドロップしたのが8曲入りのEP『7』です。1曲目はご存知、ビリー・レイ・サイラスが参加した「Old Town Road Remix」、そして最後の8曲目はそのオリジナルバージョンが収録されている構成で、実質的にはタイトル通り、7曲入りだと割り切るのがいいかもしれません。新たに収録されたのは6曲ですが、ここでリル・ナズ・Xは、いわゆる画一的なトラップビートは排除したとインタビューで語っています。既存のラッパー像とは違うところを目指している、という意志の表れでしょうか。ただ、その戦略が功を奏したのか、本EPのリードシングルとして発表された「Panini」は、なんとNirvanaの「In Bloom」を引用しており、リリース後間も無くゴールドディスクに認定されるほどのヒット曲に。多くのリスナーが、「リル・ナズ・Xは決して一発屋ではない」と実感したのではないでしょうか。今まさに、世界中のフェスや賞レースに引っ張りだこのリル・ナズ・Xですが、例えば毎年恒例のグラミー賞ではどのように彼の楽曲が評価されるのか、そして今後、さらなるヒットは望めるのか、などなど彼への興味は尽きません。

リル・テッカ『We Love You Tecca』

 そして、今まさにネット上を中心にバズり成功しているラッパーの1人といえば、リル・テッカでしょう。2002年生まれ、なんと先月17歳になったばかりのニューヨーク出身のMCです。なんと、ラッパーとしての彼のキャリアは、9歳の時にXbox Live(マイクロソフトが提供するオンラインサービス)を通じて友人とディス曲を作ったのがきっかけだそうです。その後、SoundCloudで楽曲を発表していき、2019年5月にシングル『Ransom』を発表します。YouTubeにアップされた「Ransom」のMV、映像監督を務めたのはコール・ベネットでした。このベネット氏、1996年生まれ、弱冠23歳の起業家です。彼自身、学生時代にヒップホップのブログを立ち上げ、若手ラッパーたちのMV制作を手掛けるようになります。これまでにジュース・ワールドやブルーフェイスらのMVを制作し、ベネット氏によるプラットフォーム(兼YouTubeチャンネル)であるLyrical Lemonade(リリカル・レモネード)は、フェスの主催やオリジナルドリンクの発売など、もはや次世代のヒップホップマーケットを牛耳る企業へと成長しました。

 リル・テッカ「Ransom」のMVも、YouTubeのLyrical Lemonadeチャンネルから発表され、公開から3カ月ほどで、すでに再生回数は1億回を超えています。人気ポッドキャスト『No Jumper』のインタビューでは、「リアルな世界よりもオンライン上で人間関係を築く方が得意」とも語っていたリル・テッカ。8月30日に、既発の人気シングル楽曲も収録したデビューミックステープ『We Love You Tecca』を発表しましたが、次世代MCとしてこれから新たなロールモデルになり得るのでは、とワクワクしております。

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