川谷絵音と長田カーティスが語る、indigo la Endの音楽「孤高の存在に近づいていっている」

川谷と長田が語るindigo la End

indigo la Endは感謝している場所(長田カーティス) 

ーー長田さんにとってindigo la Endというバンドがどんな位置づけなのかも、一度聞いてみたいと思っていました。

長田:どうなんだろう。多分、僕は会社員として働けると思うんですよ。バンドマンじゃなくて、普通に会社で働けって言われたら働ける。でも、それだけで終わる人生だったら、きっとダメになっていた気がして。だから、好きなことがこれだけやれて、生活ができて、本当に大切というか、感謝している場所ですね。創作の大変さはありますけど、純粋に面白いので、全然苦しさはないです。

ーーそして聴き手の立場からすると、indigo la Endは川谷さんが一番エモーショナルな部分を見せる場所だという感じがします。この間のライブでも、「幸せな街路樹」に紐付いて、最後にプロジェクターで手紙が流れましたね。そこで、不安のようなものがきれいになるのが音楽だという趣旨の言葉があって。

川谷:そうですね。芸術ってそういうものだと思うんです。創作をしていない人は、マイナスの気持ちをなにかに活かせることって、たぶんそうないじゃないですか。悲しいことがあったら、会社に行きたくないでしょう。でも、僕らはそういう感情が曲になって、それを聴いてくれる人がいるという、すごくラッキーな職業だというか。indigo la Endはそういうところから始まっているので、別に「一番感情を落とし込む場所にしよう」と考えたわけではないんですけど、自然にそうなっていますね。

ーー悲しい気持ちでも、indigo la Endの音楽を聴いたら心地よくなる、という効果もあるように思います。

川谷:例えば僕らの応援歌とか誰が聴きたいんだろう、と思うんですよ。今のSNSを見てると人のことを応援したい人とか、本当にいるのかなと思うし、応援するというより、他人の足を引っ張ろうとする人がほとんどじゃないですか。悲しい曲のほうが他人のことを考えずに自分にとっての後悔や切なさを噛み締めることができる。indigo la Endの曲は悲しい曲ばっかりだから、噛み締めた先の心地良さがあるのかもしれないですね。

ーーそのなかで、indigo la Endの音楽は、悲しいけれど甘美な気持ちになれるものではないでしょうか。

川谷:めちゃくちゃ悲しいものって、振り切ると逆に悲しくなくなるでしょう? 例えば、めっちゃ失恋した人が「結び様」を聴いて、「わかる」という感情になったとすると、それは悲しみではなくて、悲しい経験が曲にフィットして救われる、みたいな感じだというか。

ーー長田さんは、そうした曲の特性についてはどうですか。

長田:僕は言葉の使い方がうまいなとよく思います。最初に聴いたときは、「たぶん悲しい曲なんだろうな」くらいの感覚というか、押し付ける歌詞じゃないから、ちゃんと聴かないとわからない。そこがいいんじゃないかなって。

川谷:ストレートじゃないからね。

indigo la End「ほころびごっこ」

ーー「ほころびごっこ」なんかもそうですね。

川谷:そうですね。悲しいんだけど悲しくない、みたいないい意味でフワッとした映画の曲だったので、そこに引っ張られた部分もあると思うんですけど、indigo la Endにぴったりだったなって。逆に「感動の嵐!」みたいな映画は難しいですよ。

長田:オファーこないから大丈夫(笑)。

川谷:あらためて歌詞だけを読むと「こんなこと言ってたんだ」って恥ずかしいときもあるんですけど、メロディに乗ると全然それを感じないようになっているんです。ストレートなのに、それをストレートに見せないのが、本当のいい音楽なんだろうなと思っていて。難しい言葉を使うんじゃなくて、シンプルなんだけど、シンプルに聴こえない。だから、いきものがかりの「ありがとう」とか好きなんですよ。あと、宇多田ヒカルさんの「Flavor Of Life」も〈ありがとうと〜〉から始まりますね。僕は「ありがとう」という言葉をうまく使えないので、「ありがとう」でめっちゃカッコいい曲を作るのが目標かもしれないです。SMAPの「ありがとう」も好きだし。

長田:1曲やってみなよ(笑)。

ーー「ありがとう」縛り、楽しみですね(笑)。さて、あらためてですが、メジャーデビューからの5年間、メンバーの変化も、休止期間も含めて、多くのことがありました。振り返るとどんな時間でしたか。

川谷:来年で結成10年ですし、メジャーデビュー5周年感はあまりなくて、5年という時間の流れが早いのか、遅いのかもわからないし、あまりしっくりは来ていなくて。もうアルバム5枚目なんだって、いま資料を見て思ったくらいで。

長田:1年に1枚って、けっこう頑張ってる。

ーー精力的ですよね。

川谷:いっぱい作ったな、という感じですかね。でも、この5周年くらいのときに、今回のアルバムが作れてよかったなと思っていて。改めて考えてみると、すごく成長したなって。だんだん大人になっただけじゃなくて、抜くところは抜いて、詰めるところは詰めて、そういう差し引きがうまくなった。時間が経って聴くのがちょっと恥ずかしくなる曲もなくなってきたし、10年、15年聴いてもらえるだろうなって。それこそ、ユーミンさんとか達郎さんの作品がいまでも最新作のように聴かれているみたいに、色褪せないアルバムになったと思います。

ーーどんどん複雑になって進化しているから、まだindigo la Endの真似をしようとする人たちって、あまりいないですよね。

川谷:真似しづらいでしょうね。ガチガチな”indigo la End感”って、あまりわからないと思うんです。

長田:けっこうなんでもありだから。

ーー今度のアルバムが一つの決定版のようになれば、それを研究する若い方たちが出てくるかもしれません。

川谷:でも、僕らもいびつなバンドなので、なかなかこれをやろうって気にもなれないかもしれないですけどね。良い意味で掴みどころがないし、フォロワーが出づらいバンドというか。ゲスのフォロワーはいたと思うんですけど、indigo la Endは孤高の存在に近づいていっているなと。

(取材=神谷弘一/撮影=伊藤惇)

『濡れゆく私小説』

■リリース情報
『濡れゆく私小説』
発売:2019年10月9日(水)
通常盤(CD)¥3,000(税抜)
初回限定盤(CD+DVD)¥4,000(税抜)
6/30(日)に開催された日比谷野外音楽堂でのワンマンライブ映像を収録。
【CD収録内容】
1.花傘
2.心の実
3.はにかんでしまった夏
4.小粋なバイバイ
5.通り恋
6.ほころびごっこ
7.ラッパーの涙
8.砂に紛れて
9.秋雨の降り方がいじらしい
10.Midnight indigo love story
11.結び様

【DVD収録内容】
全国ワンマンツアー「街路樹にて」東京追加単独公演「abuku」at 日比谷野外大音楽堂 ライブ映像
1.夜明けの街でサヨナラを
2.ハートの大きさ
3.はにかんでしまった夏
4.彼女の相談
5.花をひとつかみ
6.見せかけのラブソング
7.スウェル
8.名もなきハッピーエンド
9.想いきり
10.幸せな街路樹.
11.心ふたつ
12.夏夜のマジック
13.幸せが溢れたら

■ライブ情報
メジャーデビュー5周年記念ライブ「馳せ合い」
9月15日(日)新木場STUDIO COAST
【出演】
indigo la End/ゲスの極み乙女。
開場中ACT:うえの

indigo la End ONEMAN HALL TOUR 2019「心実」
10月26日(土) 大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA
10月27日(日) 福岡・福岡国際会議場 メインホール
11月8日(金) 群馬・高崎市文化会館 大ホール
11月10日(日) 宮城・日立システムズホール仙台 シアターホール
11月15日(金) 神奈川・横浜関内ホール 大ホール
11月17日(日) 北海道・札幌市教育文化会館 大ホール
11月24日(日) 岡山・岡山市立市民文化ホール
11月29日(金) 愛知・日本特殊陶業市民会館ビレッジホ―ル
1月30日(木) 東京・中野サンプラザホール
1月31日(金) 東京・中野サンプラザホール

indigo la End オフィシャルサイト

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