NUMBER GIRL、“懐かしさ”と無縁の復活劇 日比谷野音公演を観て感じたこと

NUMBER GIRL、“懐かしさ”と無縁の復活劇

 日比谷野外音楽堂という、座席のある環境で彼らのライブを観られたことも、今回とても貴重な体験だった。「NUMBER GIRLってこんなにも、音そのものがかっこよかったのか」とあらためて痛感できたからだ。かつてライブハウスの空間であれだけの熱狂を生み出す壮絶な演奏を構成していたのは、間違いなく彼らの緻密な音作りだったのだという事実を理解できたような気がして嬉しかった。また、これまでにもたくさんのライブを日比谷野音で観てきたものの、こんなにロックバンドの音にかける思いと、それが都心の空へ鳴り渡る気持ち良さを豪奢に味わったのは初めてだったように思う。そのくらい抜群に、キレの良い音のライブだった。

 田渕ひさ子(Gt)のトレードマークとでもいうべき水色のTシャツ、角度にして17度から47度くらいまでの、ジャズマスターに合わせてしなる身体の傾き。ベースアンプの調子が悪くなろうとも流れは全く崩さぬ中尾憲太郎 45才(Ba)。「アピートイナザワンテ」とメンバー紹介されるアヒト・イナザワ(Dr)。グッときたポイントを挙げればキリが無いが、日本映画の寸劇を挟みつつも向井秀徳は今回、かなり丁寧に歌っていたようだった。そこにまた復活の喜びを噛み締められたようにも思う。やはりこんなバンド、2003年から今まで他にはみなかったし、今また初めて彼らに出会えている人がいること、そして、見事にファンの独特の前のめり具合が復活していたのもとても良かった。

 お盆の都心、日比谷野音付近のコンビニから缶のお酒類がなくなるほどの祭りムードに満ちていた。周辺には音漏れを楽しむべくやってきた人々もいて、もはや“NUMBER GIRLピクニック”といった様相だった。終演後に付近ですれ違った、おそらく外で音漏れを聴いていたのであろう男性ふたりはいい感じに酔いが回っており「いやあ、金じゃなくさ、熱意を測ってほしい!!!」と笑いながら歩いていた(熱意なら誰にも負けないくらいある、だからライブを音漏れだけでなく観たかった、という意味だろう)。この『TOUR「NUMBER GIRL」』はここからまだ大阪、博多、名古屋と続く。そして終演後には全国ツアー『逆噴射バンド』も発表に。“一夜限りの”ではなく、我々の世界に今、NUMBER GIRLが戻ってきたのだ、という喜びをひしひしと感じるような一夜だった。

■鈴木 絵美里
1981年東京都生まれ、神奈川県育ち。東京外国語大学卒。
ディレクター・編集者として広告代理店、出版社にて10年間勤務の後、2015年より独立。現在はWEB、紙、イベントを軸としたコンテンツの企画・ディレクションおよび執筆に携わる。音楽、映画、舞台、テレビ、ラジオなどエンタテイメントを広く愛好。

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