草なぎ剛の演技が持つ“許される”力ーー映画『台風家族』など出演作から探る

 メガホンを取った市井昌秀監督は、「役の小鉄ではなく、草なぎさんが演じる小鉄を見たい」とリクエストしたそうだ。草なぎの生身が見えるような人間を見せてほしい、と。それに対して、草なぎは正直に「めんどくせえなあ」と思ったと吐露している。クーラーの効いていない蒸し風呂のような撮影現場で、力を抜くことを知らない監督の要求。

 自らを「適当」だと言う草なぎと、大真面目な市井監督を「水と油の関係」「本当にウザかった(笑)」と振り返る草なぎ。それこそ大真面目な人からすれば、ほめられた言動ではないかもしれない。

 もしかしたら、その草なぎ自身が持つ“許される“力こそが、彼の演じるクズを、愛すべき男に変換しているのではないだろうか。どんなに罪深い非道な人間でも、その人なりの正義や信念、そして愛情があることを気づかせてくれる力。

 そんな草なぎの“許される演技“は、多くのルールにがんじがらめになっている現代の一服の清涼剤になるはずだ。いつだって人は、人を許すことでしか、次に進めないのだから。今こそ、役者・草なぎ剛の作品が生み出されることを期待してやまない。

(文=佐藤結衣)

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