2019年、韓国のビッグドレンド“Newtro” 流行に至った経緯とK-POPに与える影響

K-POPに見るNewtroブーム

 その後、2017年から2018年にかけて、日本産シティポップブームが韓国に到来。感度の高い若者が集まる店に足を運ぶと、山下達郎や杏里の楽曲がBGMで流れている……といった現象が散見されるようになった。

 それと同時に、懐かしの歌謡曲や韓国産AORをディグする流れも徐々に活発化していく。そして、ミレニアル世代のアーティストたちに発見された過去の音楽たちが、カバー曲として、あるいは再構築された新曲として、K-POP市場に姿を表すようになった。

 Newtro系K-POPの走りといえば、2017年にIUが発表した「Last Night Story(昨夜の話)」が挙げられる。当時はまだNewtroという言葉は誕生していなかったものの、「1993年生まれのIUによる、1987年の男性アイドルグループ楽曲の、レトロ調な再解釈カバー」という点で、この曲は極めてNewtro的であると言えるだろう。

[MV] IU(아이유) _ 어젯밤 이야기 [Eojetbam Iyagi] : Last night story

 日本では「オジャパメン」というタイトルで、『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)の一コンテンツとして知名度を上げたこの楽曲は、元々は消防車(ソバンチャ)というグループの楽曲である。消防車は韓国初の男性アイドルグループとも言われており、当時は女学生を中心に相当な人気を博していたそうだ。

 また、「韓国のシティポップ歌手」として再びスポットライトを浴びることとなった往年のアーティストもいる。キム・ヒョンチョルもその一人だ。

[단독 : 최초공개] 10집 'Drive' feat.죠지 녹음실 ver.

 1989年にリリースした楽曲「久しぶりに」を人気歌手・Georgeがカバー、ヒットしたことが後押しとなり、10年以上のブランクを経て韓国音楽界に再登場することとなった。彼の最新アルバム『10th – preview』のゲストには、Georgeの他にもアイドルグループ・MAMAMOOのファサ&フィイン、女性デュオ・屋上月光(OKDAL)、女性ソロシンガー・SOLEと、現在のK-POPシーンを牽引するアーティストたちが名を連ねている。

 アイドル系女性シンガーの楽曲にもNewtro系ソングが増えているが、楽曲だけでなくミュージックビデオにもNewtro的要素が存分に含まれている点にも注目したい。

 代表的なのは、Wonder Girls出身メンバー・ユビンのソロデビュー曲「淑女」だろう。ポスト・ディスコ風の軽快なダンスミュージックをバックに、セル画アニメ風の映像やネオン煌めくサイバーパンク風の町並みなど、Future Funkの影響を存分に受けたミュージックビデオが目を引く。

Yubin(ユビン) "숙녀 (淑女)" M/V

 また、日本人アイドル・YUKIKAのソロデビュー曲「NEON」は、シティポップ系K-POPとして一時話題を博した一曲だ。ミュージックビデオ内から読み取れる数字には「1989年のアイドルとの20年越しの邂逅」が暗示されており、Newtroの現況を表したような仕上がりとなっている。

[MV] YUKIKA(유키카) _ NEON(네온)

 やや変わり種のNewtro系ソングとしては、オーディション番組出身の歌手・Eyediの「& New」が挙げられる。カイリー・ミノーグの「Turn It Into Love」を彷彿とさせるようなトラックには、ピッチの安定しないミックスが施されており、古いカラオケ映像を模したチープな映像やドリームポップ風の切なげなメロディと相まって、どことなくVaporwave的な空気を醸し出している。

[M/V] Eyedi(아이디) - & New

 ポップソングに留まらず、韓国ロックにもNewtroの風が吹きはじめている。メンバー全員が1992年生まれの4人組グループ・JANNABIは、自らを「グループサウンズ」と称しながら活動を行っている。

[MV] JANNABI(잔나비) _ for lovers who hesitate(주저하는 연인들을 위해)

 2019年5月、韓国GAONチャートで1位を獲得したヒット曲「躊躇する恋人たちのために」は、正に韓国でグループサウンズが全盛期を迎えていた70〜80年代のような楽曲だ。しかし、彼らを支持しているのは当時の音楽を聞いていた世代ではなく、やはり彼らと同じミレニアル世代の若者たちなのだという。

 韓国国内では、すでに文化消費の新たなサイクルとしてその地位を確立しつつある「Newtro」。このサイクルは今後も下の世代へと継承されていくのか、それともまた新しい若者文化が登場するのか――移り変わりの激しい韓国トレンドから目が離せない。

■飯塚みちか
1991年生まれ、早稲田大学文化構想学部卒。
会社員としてSNSマーケティング・プランニング業務に携わりながら、WEBメディアや少女漫画誌を中心にライターとしても活動中。
韓国への長期留学経験があり、とりわけ韓国のユースカルチャー・K-POPファンダムに精通している。
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