hitomi「LOVE2020」から伝わる時代の変化と不変のメッセージ 古市憲寿が歌詞を読み解く

hitomi「LOVE2020」が受け止める20年の歳月

 その「LOVE 2000」のリリースから約20年が経った今年、新バージョンが発表された。題して「LOVE 2020」。メロディはそのままに、歌詞やアレンジを一新した曲だ。

 この「LOVE 2020」、歌詞がとてもいい。〈いいね!が少なくても〉とか〈世間体気にしてる テレビのコメンテーター〉など今っぽいキーワードを取り入れた箇所も興味深いが、僕がまず気に入ったのは、〈キャパオーバーな毎日 気持ちとはズレるけど これで良しと思わなきゃ進めない〉という部分。思い通りにいかない毎日をなぐさめてくれる。

hitomi / LOVE 2020

 一番の注目ポイントは、「LOVE 2000」で〈ニセモノなんか興味はないワ ホンモノだけ見つけたい〉と歌われていたサビだ。その部分が「LOVE 2020」では〈ニセモノだって愛せたなら ホンモノより輝きだす〉と変更されている。

 本当にそうだと思う。僕たちはよく「ホンモノ」と「ニセモノ」という言葉を使う。「この音楽はホンモノだ」とか「あの人の才能はニセモノだ」とか。でもほとんどの場合、「ホンモノ」や「ニセモノ」の違いなんて主観に過ぎない。だから〈ニセモノだって愛せたなら ホンモノより輝きだす〉というのは、僕も完全に同意する。

 「LOVE 2000」が発売された2000年6月28日、僕は高校1年生だった。たぶん期末テストを控えた時期だったと思う。「LOVE 2000」のシングルCDは、駅前のAVトーヨーという店で買った気もするし、ALIVEというレンタルショップで借りた気もする。

 あれから約20年が経ち、今はこうして「LOVE 2020」について文章を書いている。不思議なものだと思う。20年というのは、人間ひとりを変えるのに十分な期間だ。

 10代は30代に。20代は40代に。30代は50代に。それは人によっては幸せな20年だったかもしれないし、人によっては不本意な20年だったかもしれない。

 だけど「LOVE 2020」は、きっとどんな20年も受け止めてくれる。そして、どんな20年もそんなに悪くなかったんじゃないかと励ましてくれる。そうやって「今の自分」を許してはじめて、人は前に進めるのだと思う。

■古市憲寿(ふるいちのりとし)


1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)、小説『平成くん、さようなら』(文藝春秋)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。最新刊は『誰の味方でもありません』(新潮新書)。

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