seeeeecunが明かす、ボカロシーンへの感謝を胸に新たな場所へと踏み出した現在の想い

seeeeecun『Bohemian Bloom』を語る

「僕も人間やぞ」と思う気持ちもある


――では、アルバムの収録曲について詳しく聞かせてください。今回の『Bohemian Bloom』には、ボカロ曲として発表していた既発曲の自身での歌唱バージョンと、完全新曲が収録されています。新曲で言うと、どの辺りの曲からできていったのでしょうか?

seeeeecun:もともとは、「アジャイル・フラジャイル」が2018年の8月頃からできていて、この曲は去年作ったものの中で一番の自信作でした。その次に自信があったのが「ケモサビ」だったので、この2曲はアルバムに絶対入れたいと思っていました。今年につくった曲の中では、「七転罵倒」が最初の曲ですね。「ケモサビ」の手ごたえがよかったので、「これを越える曲をつくるのは難しい」と思っていたんですけど、バンドでサポートしてくれるメンバーに聴いてもらったり、5周年のライブで聴いてもらったりしたときも、すごくいい反応をもらうことができて。「アルバムをつくろう」と意識しはじめてから最初につくったのがこの曲ですね。この曲は、歌詞がボカロPとしてではなくて、シンガーソングライターとして歌ったものになっています。見方によると、今回の作品は「ボカロを捨てるのか」というふうに捉えられることもあるでしょうし、それがボーカロイドへの愛ゆえだということも分かっています。だけど、その前に「僕も人間やぞ」と思う気持ちもあって。そういう想いを殴り書きしたのが、「七転罵倒」の歌詞でした。

seeeeecun - 七転罵倒 (Official Music Video)

――なるほど。確かに今回のアルバムに向けた気持ちが伝わるような歌詞ですね。

seeeeecun:次にできたのは「ハンマーヘッズ」でした。たしか、去年沖縄に行ったときに、水族館でハンマーヘッドシャークを観たんですよ。ハンマーヘッドシャークって、実は凶暴な生物ではないらしいんですけど、サメのイメージがあったので、魚がサメに食われそうになるような瞬間を人になぞらえて、何か巨大なものに飲み込まれそうになることを歌にしました。歌詞に〈ロレンチーニ〉という単語が出てくるんですけど、これはハンマーヘッドシャークが持つ「ロレンチーニ瓶(微弱な電気を感知する器官)」のことです。サウンド面では、ここ最近ハマっているアコギの音を入れました。実は最近、家に防音室ができて、音を気にせずにアコギを録音できるようになったんですよ。それで、アコギのループを取り入れています。

――曲の構造として、ギターのリフやフレーズのようなものが重要な役目を果たすというのは、最初に話してもらった好きな音楽の話に繋がりますね。

seeeeecun:そうですね。これもきっとUKロックからの影響だと思います。かっこいいフレーズひとつで曲を完成してしまえるということですね。

――また、アルバムならではのインスト曲として収録されている「Bloom」「Mags」「Bohemian」の3曲についても、制作時のことを思い出してもらえると嬉しいです。

seeeeecun:アルバムをつくるなら、僕はインストを入れたいと思っているんです。アルバムの中の小休止でありつつ、次の作品に繋がっていくようなものが好きなので。最近だと、The 1975の作品はそうですね。特に2ndアルバム『I Like It When You Sleep, for You Are So Beautiful yet So Unaware of It』と、3rdアルバム『A Brief Inquiry into Online Relationships』は好きな作品です。あの作品を聴いてもそうですけど、インストがあることで作品自体が締まると思うんですよ。昔アルバムを1枚通して聴いてみたときに、その効果に気づいた経験がありました。

――ちなみに、インスト曲のひとつ「Bohemian」には、「ガリレオ」という声ネタが入っていますよね。これは言い方も含めて「Bohemian Rhapsody」のオマージュになっています。

seeeeecun:そうなんです(笑)。つくりはじめた当初は考えていなかったんですけど、本当に思いつきで入れました。僕はフレディ・マーキュリーの歌い方が好きなので。他にはミスチルの桜井和寿さん、Coldplayのクリス・マーティンもそう。張りがあって、伸びやかな声の人が好きですね。

――アルバム完成までのターニングポイントになっている曲はありますか?

seeeeecun:僕にとっては、意外に既存曲がそういう存在だったかもしれないです。たとえば、「ヘレシー・クエスチョン」も、もちろん好きな曲ではあるんですけど、最初はアルバムの中では重要な曲になるとは思っていなくて。でも、実際に自分のボーカルで録音してみると、「これはいいかもしれない」と思うようになって。この曲を自分の声で録音してから、その後の新曲もするっとできていきました。

――ボカロ曲として発表していた曲を、自分のボーカルで歌い直す作業はどうでしたか?

seeeeecun:これはもう、結構大変な作業でした。今回のアルバム用の新曲は、僕自身が歌いながら作っていきましたけど、既存曲は、もともとボカロ曲として――。

――v flower(フラワ)などに打ち込んでいった曲だった、と。

seeeeecun:なので、そういう曲にはあまり自分では歌わないようなフレーズが入っているんです。でも、最終的に思ったのは、デモで歌ったものを録音して、それをMIDIに落としてボカロ曲を制作していると、僕がもともとつくっていたデモとは、全然違うものが出来上がるということで。元を辿ってみると、僕自身がつくった曲なので、自分で歌ってみると、最初に曲を思いついたときの感情が込められるように感じました。結局、音楽をつくることをはじめたのは自分のためで、それなら自分で歌うことが表現方法としてあると思うんですけど、僕はそこへの憧れを持ちながら、自分に言い訳をしていたことが嫌でした。ボカロが歌っている曲には素晴らしい曲がたくさんありますし、v flowerは相棒のような存在で、本当に感謝をしていて。それに今は、「v flowerのバージョンの方がいい」と言われたら、「(悔しがりながら)ウンッ!」って思ったりもする(笑)。なので、相棒であり、ライバルでもある、本当に不思議な関係になっています。だからこそ、そこに逃げている自分自身が嫌だったんです。

――大切な存在だからこそ、その言い訳にv flowerを使うのは違う、と思ったわけですね。

seeeeecun:そうです。なので、僕は自分自身にキャップをはめていた部分があったんだと思います。今回、そこから漏れ出していた感情があったことに気づけたので、自分にとって、すごくいい機会になったと思っています。既存曲だと他には、「バスストップギャラリー」も印象的でした。この曲をつくった頃は、徐々に「自分で歌いたい」と思いはじめていた頃だったので、今回歌ってみても自然にしっくりきたというか。特にサビは、自分の声に合うと感じました。

――「ローファイ・タイムズ (Rearranged)」はどうだったんですか? この曲は、そもそも初出がかなり前の曲でもあると思いますし、今回演奏にもリアレンジが加わりました。

seeeeecun:ああ、確かに! そもそも、原曲のアレンジの時点で「これが最高だ」と思っていたので、それをどうリアレンジしようかとかなり考えました。そして、アルバム制作の終盤に「有象無象空想C荘」をつくって、最後に「ピーナッツと慟哭」ができました。これが本当に、難産だったんですよ……。この曲はサビのメロディや歌詞が思い浮かばなくて、最後まで放置していました(笑)。僕は歌詞をつくるときは、最初にメロディを考えて、そこに適当な言葉で歌を乗せるんですけど、歌詞が恋愛のものになりそうだったので、仮に元カノが結婚したらこんな気持ちになるのかもしれないな、ということを想像して書いていきました。

――最後に、アルバムジャケットについても聞かせてください。このアートワークは、今年6月に開催された5周年ワンマンライブ『Life Is Rubbish』のアートワークで棺桶に入っていた女の子が、そこから飛び出すようなものになっていますね。

seeeeecun:そうなんです。あのライブのときに棺桶に入っていた女の子って、「ローファイ・タイムズ」の女の子なんですよ。「ローファイ・タイムズ」は僕の代表曲でもありますけど、ここにきて、あの頃から心の中でずっと言いたかった本音が、やっと言えるようになった感覚があって。つまり、ずっと死んでいた心が、もう一度起き上がるという意味を込めているんです。「ローファイ・タイムズ」の動画に出ていた子が棺桶から起き上がって、天に向かって昇っていく――。これは「死ぬ」のではなくて、「花開いていく」ということで。それもあって、5周年ワンマン『Life Is Rubbish』と『Bohemian Bloom』を、繋げたいと思っていました。

――これまでの活動すべてが繋がっている作品だからこそ、ですね。

seeeeecun:今回のアルバムは、まだまだ粗削りな作品だと思うんですけど、それでも、これまでのことや今の自分を色々と詰め込むことができたとは思っています。なので、次はさらにクオリティを上げて、さらに起き上がれるように頑張っていきたい。先のことは分からないですけど、まずはこのアルバムを出して、その後にできていく曲から、また先のことを考えていきたいと思います。僕としては、今回の作品でやっとスタートに立てたと思っていて、実際に楽しさも感じているので、あとは、聴いてくれる人にも受け入れてもらえたら嬉しいです。ちなみに、ジャケット写真の背後にある街並みは、実はOasisの『(What's The Story) Morning Glory?』へのオマージュなんですよ。アートワークを担当してくれているさなぎのイラストは、街の風景ともすごく合うものですし、今回は音楽好きの人と、「これって『Morning Glory?』のオマージュ?」という話ができたらいいな、と思っていました(笑)。さなぎはつねに進化しているので、「この子に置いていかれないように頑張らなければいけない」とも思っています。

(取材・文=杉山仁/写真=はぎひさこ)

『Bohemian Bloom』

■リリース情報
『Bohemian Bloom』
発売日:8月7日(水)
価格:2,500円(税抜)
仕様:CD1枚組
レーベル:ルサンチマン・レコード
収録曲:
1. Bloom
2. アジャイル・フラジャイル
3. ケモサビ
4. ハンマーヘッズ
5. デジャヴ・ラブユー
6. 有象無象空想C荘
7. Mags
8. 七転罵倒
9. ラビッシュ
10. ヘレシー・クエスチョン
11. ピーナッツと慟哭
12. Bohemian
13. バスストップギャラリー
14. 疑神暗鬼
15. ローファイ・タイムズ(Rearranged)

<店舗別購入特典:(下記オンラインショップは6月9日(日)20:00から予約可能)>
タワーレコード オリジナル スペシャルCD:
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※特典は数に限りがあり、なくなり次第終了。

seeeeecun『Bohemian Bloom』特設サイト

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