南條愛乃、歌詞の根底にある“つながり”の大切さ 作詞曲から音楽活動への思いを読み解く

南條愛乃、作詞に込められた思い

 南條の実体験に基づいているのは、これだけではない。『東京 1/3650』収録曲「believe in myself」では、上京後の空回りした毎日に対する悔しさを歌う。最終的には、その気持ちを〈どんな明日だって 乗り越えるよ〉という邁進に向けた決意にまで昇華するのだが、その過程ではやはり〈自立して 歩く錯覚も/守られていたから 出来たと知った〉と、周囲の力を借りていたという厳しい現実にも直面する。

 同楽曲以外でも、南條は自身の歌詞を通して、心のなかに渦巻く葛藤を表現してきた。それは、『Nのハコ』収録曲「ツナグワタシ」でも同様であり、その曲中には〈傷ついてるヒロインちゃん浸ってるのもキモチイイもんね?〉と、思わず心の痛い部分を突かれそうになるフレーズが登場。たしかに「ツナグワタシ」においても、これらの葛藤は終盤までにポジティブな着地点を見出すのだが、なぜ彼女はここまで自身の感情をストレートに届けようとするのか。

 それはやはり、南條の音楽活動の根底に『カタルモア』があるからなのだろう。彼女の音楽は、それぞれが生きてきた時間を共有するためのものとして、大切な友人と過ごす喜び、思い通りにならない現実と向き合った時のやるせなさなど、自身の人生と重なって映る様々なシーンを描いている。その理由は、彼女が毎日の生活のなかには“灯台もと暗し”ともいえる、普段は忘れがちな多くの幸せが転がっていることを誰よりも知っているからであり、彼女を応援する人々の毎日にそっと寄り添いたいと願っているからではないだろうか。

 実際に、南條が思い通りにいかない葛藤を歌うことで、その想いに自身の境遇を重ね合わせ、自然と勇気をもらった聴き手も少なくはないと思われる。また、その葛藤を抜け出した後でも、南條の楽曲に改めて向き合うことで、その当時に揺れ動いていた心情を懐かしむことさえできるなど、彼女の音楽は様々な場面でその役割を変化させられるといえる。

 そしてそこには、彼女が実生活や声優として歩んだ様々な人生が描かれているからこそ、その言葉も一段と説得力が帯びるのだろう。言い換えれば、南條が歌うからこそ、彼女の楽曲は初めてその意味をなすのであり、そこに多くの聴き手は心動かされるのだ。そんな彼らの想いが“実感”として共有される場所が、南條のライブ空間なのだと思われる。

 そんな“カタルモア”な精神性は、南條の作詞曲における〈~だよ。〉や〈~ですか?〉といった、聴き手に“問いかけ”をするような数々のフレーズにも表れている。その特徴は、彼女の現在を詰め込んだ『LIVE A LIFE』収録曲「繋がりの歌」にも大きく反映されており、〈元気にしていたかい?/久しぶりだね 少し変わったかな?〉という導入部は、まさにその象徴といえる。

 同アルバムに向けて制作された新曲は、どれも南條がライブを通して体験した感情を基にしたものばかり。なかでも「繋がりの歌」の歌詞では、南條と彼女を応援する人々にとっての“いつでも帰ることができる場所”を表現したのだろう。曲中には、彼らがライブ同様に声を合わせて歌う様子が見られるほか、「カタルモア」や「今日もいい天気だよ」といった過去のメッセージソングと共通するような言葉も散りばめられている。ここからは、南條の音楽活動における姿勢が、その始動時より一貫していることを大いに読み取れるに違いない。

 念願のデビュー作となった『カタルモア』から今回発売される『LIVE A LIFE』まで、南條が大切にする人々との“繋がり”は、作詞の側面からも存分に体感できる。最後に『東京1/3650』収録の作詞曲「Recording.」から、南條の音楽活動に懸ける想いが込もったワンフレーズを紹介したい。

〈誰かの気持ち代わりに歌うなんて 大きなことは/出来ないけど 寄り添えるような曲になったら…〉

 作詞家=南條愛乃は、今日も〈たくさんの気持ちを詰め込んで 歌にのせて〉いる。

(文=一条皓太)

■リリース情報
ニューアルバム『LIVE A LIFE』
2019年7月24日(水)発売
【初回限定盤<5CD+Blu-ray+フォトブック>】¥8,000(+税)
【初回限定盤<5CD+DVD+フォトブック>】¥8,000(+税)
【通常盤<5CD>】¥5,500(+税)
発売元・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

<CD収録内容>
ORIGINAL CD
01. 君のとなり わたしの場所(TVアニメ「同居人はひざ、時々、頭のうえ。」エンディングテーマ)
  作詞:南條愛乃  作曲・編曲:奥華子
02. 君との音色 <新曲>
  作詞:南條愛乃  作曲・編曲:丸山真由子
03. and I <新曲>
  作詞:南條愛乃  作曲・編曲:齋藤真也
04. an-tiit <新曲>
  作詞:南條愛乃  作曲・編曲:黒須克彦
05. Gift <新曲>
  作詞:南條愛乃  作曲・編曲:安瀬 聖
06. 繋がりの歌 <新曲>
  作詞:南條愛乃  作曲・編曲:増谷 賢

LIVE CD1【市川市文化会館 Day2  2018.9.23】
01. 夜、静かな夢  
02. believe in myself
03. Recording. 
<MC> 
04. Dear×Dear
05. 7月25日
06. だいすき
<MC> 
07. だから、ありがとう
08. +1day

LIVE CD2【名古屋国際会議場 センチュリーホール  2018.9.29】
01. simple feelings
02. 灰色ノ街ヘ告グ
03. idc
<MC> 
04. NECOME
05. Dear..
<MC> 
06. ヒカリノ海
07. ヒトビトヒトル 
08. ツナグワタシ 
09. 今日もいい天気だよ 
10. Gerbera
11.ゼロイチキセキ

LIVE CD3【岸和田市立浪切ホール  2018.10.8】
01. 一切は物語
<MC> 
02. 飛ぶサカナ
03. スキップトラベル
04. リトル・メモリー
05. 逢えなくても
06. 光 
07. カタルモア 
08. iD* 
09. pledge
10. 螺旋の春 
11. 光のはじまり
12・ R・I・n・g・

LIVE CD4【静岡市民文化会館 大ホール  2018.10.14】
01. THE MEMORIES APARTMENT
02. あなたの愛した世界
03. 黄昏のスタアライト
04. きみを探しに
05. 小さな恋の花
06. ナチュラルカラー
<-BAND inst->
07. 一切は物語
08. 飛ぶサカナ
09. blessing symphony
10. 光のはじまり
11. 君が笑む夕暮れ
12. ゼロイチキセキ
13. ・R・i・n・g・
14. みんなの”好きな言葉”で書いた歌

<初回限定盤収録内容>
ライブ映像盤(Blu-ray/DVD):「Live Tour 2018 -THE MEMORIES APARTMENT-」静岡公演を収録
フォトブック(24P)
収録内容等は変更になる可能性あり。

■アルバム発売記念イベント情報
イベント内容:特製色紙サイン会
開催日時・会場:
8月17日(土)東京都内某所
8月24日(土)大阪市内某所
8月25日(日)名古屋市内某所
※参加方法ほか詳細はオフィシャルサイトにて。

南條愛乃オフィシャルサイト

南條愛乃オフィシャルファンクラブ「ごきんじょるの友の会」

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