草野マサムネも注目する福岡発バンド NYAI、小熊俊哉がそのポップセンスを解説

福岡発バンド NYAIの魅力を分析

 それに何よりNYAIのカラーを担っているのは、takuchanとABEによる男女ツインボーカルだろう。音源を聴いてすぐに思い浮かんだのは、AxSxEとアインを擁した伝説のバンド、BOaT。実際、NYAI結成時のロールモデルだったそうで、彼らの尖ったポップセンスはここに正しく継承されている。

 このように、90年代オルタナ/インディーポップの要素をユーモラスに昇華させてきたNYAIは、この度リリースした2ndアルバム『HAO』で、これまでとは比べ物にならないほどの爆発的進化を果たしたようだ。猛烈なテンションを貫きつつ、楽曲のレンジやアレンジのバリエーションは大きく拡張。おまけに、どの楽曲もすこぶるキャッチーで、「タワレコメン」(タワーレコードのスタッフが新進のアーティストをプッシュする企画)に選出されたのも納得のポピュラリティを獲得している。

Jackie chan`s J / NYAI

 アルバムを再生すると、ジャッキー・チェンに言及した爽快なパワーポップ「Jackie chan`s J」、曲名通りのギターノイズが四つ打ちのリズムと踊る「Noise」、Slowdive辺りに通じるシューゲイザー的なリフを反復させた「Buckwheat」という、曲調の異なる冒頭3連発でいきなり畳み掛けてくる。そこから勢いだけで押し切ろうとせず、ドリーミーな歌と演奏をじっくり聴かせる4曲目の「Yumeshibai」は本作随一のハイライト。そこから冒頭で触れた「Boredom」へと続くメロウな展開は、脱力感の漂うアートワークに反して(失礼)ロマンティックにすら思えてくる。

Yumeshibai / NYAI

 その後も、My Bloody Valentineの浮遊感とNew Orderのリズムセクションが合わさったような「22column」、かつて対バンしたというCHAIを想起させるアジアンニューウェーヴ「Chinese daughter」といったふうに、アッパーとメロウとファニーを使い分けながら、アルバムは起伏に富んだ展開を描いていく。おまけに、鍵盤のループを用いた「Spicy beans」のような実験的ナンバーも用意されており、次のステージへ進むことを明確に狙った、バンドにとっての野心作であるのは間違いなさそうだ。

 実際のところ、ニトロデイや突然少年といった新進バンドの台頭もあり、日本の音楽シーンにて「オルタナ」は再浮上しつつある。まもなくべールを脱ぐNUMBER GIRLの復活劇も、そのムードを推し進めることになるはず。そういった動きも追い風にしつつ、謙虚な5人組がダークホース的に飛躍する可能性は十分にありそうだ。

■小熊俊哉
1986年新潟県生まれ。ライター、編集者。洋楽誌『クロスビート』編集部、音楽サイ『Mikiki』を経て、現在はフリーで活動中。編書に『Jazz The New Chapter』『クワイエット・コーナー 心を静める音楽集』『ポストロック・ディスク・ガイド』など。Twitter:@kitikuma3

『HAO』

■リリース情報
『HAO』
発売:7月3日(水)
価格:¥2,000(税抜)
<トラックリスト>
1. Jackie chan`s J 
2. Noise
3. Buckwheat
4. Yumeshibai 
5. Boredom
6. 22column
7. Chinese daughter
8. Spicy beans
9. Circular saw
10. Ghostly turn
11. MeaninglessHAO

NYAI オフィシャルサイト

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