KIRINJIが次に向かうサウンドの方向性は? 新曲「killer tune kills me」や「雑務」生演奏を見て

KIRINJIが次に向かうサウンドの方向性は?

 プレミアムライブに先立って、「killer tune kills me feat. YonYon」が初めて観客の前で演奏されたのは、5月31日から6月2日にかけて愛知県で開催された野外音楽フェス『森、道、市場』初日、5月31日のグラスステージにおいてであった。この日は、天候のよさや海辺に設置されたステージという環境もさることながら、イベントにDJとして参加していたYonYonをステージに招いて演奏される幸運も重なった。弓木とYonYon、両者が並んで歌った同曲は、印象的なメロディと心地よいリズム、ふたりの声の重なりが伝わるすばらしい演奏であった。また、YonYonの堂々としたボーカルや立ち振る舞いも印象的で、生演奏でしか伝わらない楽曲のエッセンスを体感できたのだった。

 東京の観客にとっては、初めて生で「killer tune kills me feat. YonYon」を聴くことができたプレミアムライブ。筆者は6月7日のセカンドステージ(プレミアムライブは1日2公演)を体験することができた。場所の雰囲気もあり比較的落ち着いた演奏だが、2018年リリースのアルバム『愛をあるだけ、すべて』の楽曲を中心に進行していった。堀込高樹はキーボードを弾く機会が多く、サポートメンバーの渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)が演奏するキーボードと重なりつつ、厚みのあるサウンドを作りあげている。荒井由実「雨のステイション」のカバーといった意外な選曲や、2005年発表のソロアルバム『Home Ground』の楽曲「Soft focus」などの演奏も嬉しい。また個人的には、昨年KIRINJIが目指した新しいサウンドへの挑戦を象徴するような「新緑の巨人」がハイライトであった。

 『愛をあるだけ、すべて』は、現行のダンスミュージックやヒップホップが持つ音像の強さ、低音域への志向、シンプルな曲の構造などを取り入れながらサウンドを刷新する、というコンセプトに基づいて作られていた。「killer tune kills me feat. YonYon」にもそのアイデアは引き継がれているが、では今年のKIRINJIはどのように変化するのだろうか。

 その一端が垣間見えたのは、未発表の新曲として最後に披露された「雑務」であった。ミドルテンポのダンサンブルな曲調や、リズミカルに細かく刻まれるハイハットなど、現行のポップミュージックが持つ心地よさをKIRINJIらしく昇華した「雑務」。この曲はレコーディングを経てどのように生まれ変わるのだろうか? KIRINJIは昨年同様、音像を重視するサウンドプロダクションの方向性へさらに思い切って舵を切り、推し進めていくのだろうかと想像がふくらんだ。新しいアルバムがフレッシュな驚きに満ちた作品となることを願いつつ、大きな拍手の中で演奏を終えてステージを後にするメンバーたちを見送るのだった。

(写真=立脇卓)

■伊藤聡
海外文学批評、映画批評を中心に執筆。cakesにて映画評を連載中。著書『生きる技術は名作に学べ』(ソフトバンク新書)。

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