Saucy Dogが提示した“歌モノバンドの王道” 一つの目標だった日比谷野音でのライブを振り返る

サウシーが提示した“歌モノバンドの王道”

 特に、野音という屋外でのライブでは、石原の歌声がこれでもかと空に向かって突き抜けていく。〈じゃあね/またどっか遠くで/いつか〉と切なく叫ぶように歌う石原。最高に気持ちいい。アウトロではせとの透き通るように綺麗なコーラスが、〈ラララララララ…〉というハミングを包み込む。日常の中で静かに始まった恋が佳境を迎え、そして後を引きながらも徐々に消えていき、エンディングを迎えるこの曲は、まるで1本の物語のようだ。“歌モノバンドの王道”とは、紡ぎ出した言葉を、楽器隊がボーカルを支えながら届け、リスナーそれぞれの中にリアルな情景を生み出しながら一つの物語を完成させることではないだろうか。Saucy Dogはまさにそれを具現化させたバンドと言える。

 同時にこの日のライブは、冒頭の石原の発言のように、“らしさと変化”からなるSaucy Dogの今が詰まっていたように思う。たとえば、現体制になる前に作られた曲「Wake」は、コーラスの入れ方など少しずつアレンジが加えられた今の「Wake」として披露。また新曲「ゴーストバスター」では、これまでの一人だけの物語の曲とは違い、石原が会場にいる全員の背中を力いっぱい押すかのように絞り出す歌声が印象的だった。ライブを見るたびに、彼ら3人の絆とグルーヴがより深まっているのを感じる。そしていつも音と戯れるように楽しそうな彼らの姿がステージで輝いているからこそ、観客たちも自然と笑顔になる。Saucy Dogは、センチメンタルポップネスとキャッチーなサビのメロディは残したまま、着実に進化と変化を遂げているのだ。だが、どんなときでも私たちリスナーに寄り添うようにして、生活を彩り続ける。それは今この瞬間もそしてこれからもずっとそうなのだろうと、雨の中にも関わらず野音を埋め尽くす観客たちの笑顔を見てふと思った。

 アンコールでも勢いが止まることなく、Saucy Dogは最後まで全力で駆け抜ける。この日最後の曲となった「グッバイ」では、〈昨日までの自分にさよなら〉と石原が訣別を告げ、〈グッバイバイ〉という約3000人の大合唱が優しく夜空を包み込んだ。彼らが紡ぎだす一音一音は、雨とともにじんわりと心に沁み渡っていく。「雨が降ってたからこそめっちゃよかった」、間違いなくそう思えるライブだった。Saucy Dogが3人で歩んできた過去、そして彼らの一つの目標である野音に辿り着いた今、たくさんの可能性に溢れている未来。Saucy Dogは、今後も“王道歌モノロック”として、3人にしか出せない音を届けていく。彼ららしい物語は少しずつ形を変えながら、どこまで大きく広がっていくのだろうか。

(文=戸塚安友奈/写真=白石達也)

■セットリスト
Saucy Dog『YAON de WAOOON in TOKYO』
4月30日(火)東京・日比谷野外大音楽堂

01. 真昼の月
02. ナイトクロージング
03. ジオラマ
04. あとの話
05. 曇りのち
06. マザーロード
07. Wake
08. 新曲
09. いつか
10. コンタクトケース
11. へっぽこまん(アコースティック)
12. 世界の果て(アコースティック)
13. 煙
14. メトロノウム
15. バンドワゴンに乗って
16. ゴーストバスター
EN1. 新曲
EN2. グッバイ

■関連リンク
Saucy Dog オフィシャルサイト

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