古舘佑太郎が映画『いちごの唄』で話題になる前に伝えたい 2『生と詩』での驚きのジャンプアップ

 で、なんでことほどさように2を絶賛したくなったのかというと、「すごいぞこのバンド」ということを、もうちょっと世の中にお伝えした方がいいのではないか、という気持ちになってきたからなのだった。

 なんで? 映画『いちごの唄』を観たからです。

 NHKの連続テレビ小説『ひよっこ』(2017年上半期)や『奇跡の人』で峯田和伸をフックアップした大物(ですよねどう見ても)脚本家・岡田惠和が、銀杏BOYZの楽曲をモチーフにして書いた……というか、各章のタイトルが銀杏の曲名になっていて、それに沿ってストーリーが進んでいくのだが、とにかく、そんなふうにして書かれた小説『いちごの唄』が映画化されて7月5日に公開される。主演は古舘佑太郎と石橋静河。峯田和伸も出ているし当然銀杏の曲ばんばん使われてますよ、というので試写を観たのだが。ヤバい! 売れちゃう! という仕上がりだったのだ、この映画での古舘佑太郎が。って、朝ドラ(『ひよっこ』)に出た時点で「もう売れてるよ」って話でもあるな、とも思うが。

 原作を読んだ方はご存知だと思うが、この『いちごの唄』という小説、ちょっと特殊なのだ。文章はすべて主人公・コウタの一人称のモノローグになっているのだが、このコウタくん、人格が素朴すぎて、ちょっとダサい。現実にはいないよなあってくらい純真なのだ。うというのもあって、物語全体に「これ、童話?」みたいなテイストが漂う、いわゆる普通の小説とは違う、不思議な読み心地の話になっている。

 それを映画にするって、どうやって? 作品に通底する感覚はファンタジーなのにディテールは思いっきり日常、みたいな、どっちつかずの映画になりそうだなあ。などと、懸念していたのだが、古舘佑太郎の力で、その懸念が全部クリアされていたのだ。コウタの「ちょっとアレな感じ」を、そのまんま「ちょっとアレな感じ」で演じきれていながら、「いねえよこんな奴」じゃなくて「いるよなこんな奴」というものになっている。

 びっくりした、その役者としての力量に。そして確信した、「今後もどんどん仕事来ちゃうなあ」と。今年もう一本主演映画あるし(『とってもゴースト』2019年夏公開予定)。これまでもっともメジャーな仕事は、『ひよっこ』1)のヤスハル役だと思うが、あれと並ぶオファーや、あれを越えるオファーが、どんどん来てもまったく不思議じゃない。

 いや、役者として売れてくれるな、とは全然思わないが、たとえば峯田和伸のように、ミュージシャンとして不動のポジションを確立した上でなら全力で応援したい。だが、このままいくと数年後には「え、ミュージシャンなの?」みたいなことにもなりかねないなあと。で、2というバンドのポテンシャルを考えると、そうなるのは口惜しいなあ、と切に思うのだった。

 2は5月の連休明けから7月まで、計13本の『生と詩』のリリースツアーを行う。ファイナルは7月11日、渋谷クラブクアトロ。あっという間にこのキャパでは観れなくなります、ということになるかどうかはまだわからないが、そうなって然るべき才能だと思う、本当に。

■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。「リアルサウンド」「DI:GA ONLINE」「ROCKIN’ON JAPAN」「週刊SPA!」「KAMINOGE」などに寄稿中。

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