稲垣&草なぎ&香取の出発にはいつも雨がつきものだった 令和の幕開け飾った『ななにー』を見て

新しい地図の出発にはいつも雨がつきものだった

 そして同時に、これほど多くの平成の名曲たちを前にして、SMAPの楽曲が披露されない寂しさは拭いきれない。新元号が発表された際、安倍首相が「世界に一つだけの花」に言及したことも記憶に新しい。それくらい、平成の時代を語る上で、欠かせないグループだったのだと改めて実感する。

 「よくわからない大人の事情とかあるのか……」。令和へのカウントダウン直前、草なぎのナレーションで、視聴者の思いを汲み取るような言葉が綴られた。新しい地図を広げて、SNSで多くのことを共有し、共感し、楽しんでいること。それでも大人の事情があるのか、みんなが望む場所に到達できていない部分もあること。でも、みんなのおかげでものすごく生きていること。「同じ時代を生きているんだ」ということを、日々強く実感しているということ。

 そして、平成の30年間は何かに追われるように、ただひたすらがむしゃらに走り抜けてきたこと。かつて、みんながちゃんと立っていられるように、「世界に一つだけの価値があるんだって」伝えたこと。そして、今はもう、みんな誰かのメッセージを受け取るだけじゃなく、自分の物語を生きている。少なくとも、そう生きようとしていること。そして、そんな一人ひとりの物語の一部になれたら、僕たちはこんなにうれしいことはない……と。

 静かに、淡々と、語られる草なぎのナレーションは、まるで流れ星のようにスッと心の中に落ちる。「令和の英語訳は、ビューティフルハーモニーだそうだ。寄り添い、共感し、共に品よく、美しく、生きていこう。ワクワクするような新しいことを一緒にやろうね。私たちは、新しい地図」。

 彼らの出発には、いつも雨がつきものだった。1991年のデビューイベントも雨の中で行なわれたし、2017年に草なぎと香取が原点回帰にと駅前でダンスパフォーマンスのゲリラライブを行なったときも雨。そして、令和を迎える今夜の東京タワーでのライブも雨だった。

 「雨降って地固まる」。草なぎがポロッとつぶやいた何気ない言葉が心地よく響く。冷たい雨を知っているから、温め合う仲間を大事に思える。恵みの雨が降るから、花が咲く。そして、雨だったからこそ忘れられない日になる。新しい時代、新しい物語を、一人ひとりが紡いでいく。その1ページ目に、『ななにー』の雨のライブを。そして、彼らの、これを読むすべての人の物語が、そんな愛しい想い出でいっぱいになるように、心から願っている。

(文=佐藤結衣/写真=(c)AbemaTV)

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