スガ シカオ、キャリア集大成後の意欲作を語る「歌が主人公で歌詞が大事」

スガ シカオ、キャリア集大成後の変革

スガフェス以降の変革があった 

ーーここまで歌詞の話が多く出てきていますが、曲調やサウンドよりも、今回は言葉が引っ張っていった感じだったんでしょうか?

スガ:うん。恥ずかしい話だけど、ここまでのキャリアで歌を中心に考えたことがあまりなかったんですよ。スガフェスで沢山のアーティストとデュエットとかセッションをして「みんなこんな風に歌を歌ってるんだ」って思って、歌に関心が湧いてきちゃったんです。その後は『Hitori Sugar』でギターと歌だけでツアーをして、そこでも「いい歌ってなんだろう」って思った。歌に焦点があってきた。だから、今回は歌や歌詞がイニシアチブをとるように作ってるんです。

ーー今まではそうではなかった?

スガ:今までは全部同列だったんです。歌詞も歌もグルーヴも、全部一つで曲になっていた。でも、今回のアルバムは歌が主人公で、歌詞が大事。それはスガフェス以降の変革があったんだと思います。

ーーそうやって歌が主人公であるというのと、いろんなプロデューサーと一緒にやるという作り方になったのも関係性がある?

スガ:それはあったかもしれない。僕が自分でやっちゃうと、歌が曲の一部になっちゃうからね。歌を主人公にしたいから、なるべく自分でやらないという。

ーープロデューサーの人選はどういう風に決めていったんでしょうか?

スガ:曲を作った時に、誰に聴いてほしいか思い浮かんだ人にお願いしましたね。参加ミュージシャンもそう。たとえばハマ(・オカモト)くんは「ドキュメント 2019 feat.Mummy-D」で是非ベースを弾いてほしかったんですよ。ああいうディスコの曲は、オッサンを呼ぶと本当に当時のディスコになっちゃうんで。今の世代のジャミロクワイ感がほしくて呼びました。

ーー「ドキュメント 2019 feat.Mummy-D」はどういう風に生まれた曲なんでしょう?

スガ:これはあんまり覚えてないですね。調子が上がってきてる時にどんどんできていった曲で。90年代のディスコリバイバルみたいな感じのアレンジにしたくて。いつも一緒にやってる釣(俊輔)さんにお願いして。で、歌詞もパパっと書いた。

ーーこれ、パパっと書いたんですね。いわゆる同業のミュージシャンをチクチク言ってるような、かなり刺激の強い歌詞ですけれど。

スガ:ぼやいてるというかね。でも、自分の声で歌うと冗談に聴こえなくなっちゃって。マジで噛み付いてるように聴こえちゃうんだよね。で、これはヤバい、マジで音楽業界とか特定のアーティストに噛み付いてるように見られるとイヤだなって思って、(Mummy-)Dさんにお願いしたんです。ちょっと茶化してくれないかって。Dさんがいないと、本気でディスってるように聴こえちゃうから。

ーー釣俊輔さんは「あんなこと、男の人みんなしたりするの?」でも一緒にやってますが、彼にはプロデューサーとしてどういう手腕を感じているんでしょうか。

スガ:釣さんはギタリストなんで、僕が作ったデモのギターを上手に作品にしてくれるんですね。ギターが格好よく聴こえるように作ってくれる。だからギターメインの曲をお願いすることは多いですね。キャリアも知ってるし、好きなアーティストも似ているので。

ーー「おれだってギター 1本抱えて 田舎から上京したかった」では田中義人さんがアレンジに参加しています。田中義人さんはずっとサポートで弾いている親交の深いギタリストですが、彼を起用したのは?

スガ:これはギターリフも全部自分で作ってるんですけれど、プリンスっぽい跳ね方をするギターがどうしてもほしくて。それは自分には弾けないんです。プリンスの跳ね方って、ジャズなんですよ。ジャズを通ってロックができるギタリストじゃないとああいう跳ね方ができないんです。音符で言うと、ジャズのシャッフルは1拍を3つに割って、三連符の1と3で考えるんです。で、1拍目がちょっと遅れるんですね。このジャズの感覚がないと、この跳ね方にならない。ロックの上手い人は1拍目がジャストなんで、それだとロックのシャッフルになっちゃう。それができるのが(田中)義人だけだという。

ーーこの曲は、ここ数年、ロバート・グラスパーとかカマシ・ワシントンとか、ジャズの領域から来たプレイヤーがヒップホップをグルーヴの面で新しくしている。その流れに呼応しているタイプの曲ですね。

スガ:そうかもしれない。「am 5:00」も義人のギターですね。これもチル系のヒップホップのビートと、ジョー・パスみたいなジャズギタリストがもし一緒にやったらこうなるんじゃないかというのを研究して作りました。

ーー個人的には「am 5:00」がアルバムの中で一番好きな曲で、XXXテンタシオンなどのエモラップやサッドラップと言われるものにも通じる感覚のある曲だと思いました。

スガ:僕はヒップホップは深く掘らないんだけど、ずっとダウナーなままの今のヒップホップがすごく好きで。そこにジャズの要素が入ってくるのが今っぽい感じがするんですよね。で、義人はものすごくヒップホップに詳しいんで、その温度感もすごくわかってるからね。

ーー話を聞いていると、エバーグリーンというテーマはありつつも、その一方で、サウンドや音楽性については今の時代性をかなり意識していたんじゃないでしょうか。

スガ:時代性は出そうというより、出ちゃうという感じなんですよね。「こういうの、やりたいよね」というと、だいたい周りのミュージシャンが「これでしょう?」って。自然とそういうものが出てくる感じがしますね。

ーー今回のアルバムでセルフプロデュースをしている曲がその「am 5:00」と「労働なんかしないで 光合成だけで生きたい」ですが、「労働なんかしないで 光合成だけで生きたい」を自分でプロデュースしたのは?

スガ:これはデモを作った段階でホーンセクションまで全部自分で書いちゃったんで、わざわざ他の人に投げるまでもないかなって思って自分でやったんですね。この曲を自分で作って「このくらいのデジタル感で、これくらいキーボードが全然ない感じのアルバムです」という指標にしていたんです。アルバム全体を聴いた時のイメージがこういう感じですって言って、アレンジャーのみなさんにお願いしたという。指標になるアレンジをまず自分で一回作った感じですね。

ーーなるほど。結果的にタイトルトラックになったということですけれど、制作段階でも一つの指針になっていた。

スガ:なってましたね。曲としてもできたのは一番早かったから。アルバムの中心というか、最初のモデルケースでしね。

ーー改めてその最初の質問に戻るんですが、「労働なんかしないで 光合成だけで生きたい」という言葉、この曲の歌詞に出てくるモチーフは、どういう風に今の時代を切り取ったものだと考えていますか?

スガ:そんなに難しいことは考えてないんですけどね。睡眠障害がひどいんで夜中に起きてビールを飲んだりしてるから、ベッドサイドにビールが溜まっていく。そういう自分の部屋のリアルから物語がスタートしていく感じで。で、「光合成だけで生きたい」っていうことになっていくんだけど、このまま終わるとただ「働きたくない」って言ってる頭の悪いヤツになっちゃう(笑)。でも、その一方でリストラされたけど自分では幸せだと思ってるらしい友達の話を聞いたり、外国の人が「なんで日本人は働いてばっかりなのか、幸せを感じる時間はないのか」みたいに言ってるニュースを見たりして、そこから幸福感というか、幸福って何なんだろうということを歌詞に入れたくなった。それで書き直して、この形になったんですよね。

ーーもっと深いテーマになった。

スガ:だからタイトルだけ見ると「働きたくない」なんだけど、実は、幸福感というものは誰かに決められるものじゃなくて自分でしか決められないということを歌ってる曲なんですよね。自分が幸せかどうかを査定するのは他の誰かじゃなくて、自分しかいないという。そういうところに落ちてくれたんで、自信の一曲になりました。

ーーこの曲が1曲目にあることで「遠い夜明け」が活きてくる感じがします。

スガ:そうですね。同じ 「働く」とか「社会の中で生きていく」ということがテーマなので。

ーー「遠い夜明け」は、いわば社会の中で頑張ってる人に響くタイプの言葉が歌われている。これはこれで誠実な曲だと思うんですが、このインタビューの中であったように、これは「善人」としてのスガシカオである。その対極にあるのが「労働なんかしないで 光合成だけで生きたい」で、この二面性が最初の2曲で表現されている。

スガ:たしかにそうですね。なので先行配信は「遠い夜明け」だけど、MV作るのは「労働なんかしないで 光合成だけで生きたい」なんですよ。MVも自分の発案で面白いものを作ろうと思ってますね。ただ作っても爪痕が残せないから、なにかちょっと引っかかるものにしようと思ってます。

ーー最初に話をしたように、やっぱり爪痕を残すという発想を徹底している。

スガ:そうですね。「遠い夜明け」はドラマ主題歌だし、スタッフはみんな推してたんだけど、でも「こういういい曲を推しても響かないと思うよ」という話をしたんですよ。とっかかりのない「いい曲」はただ流れていっちゃうだけで、いい曲として認められる前にいなくなってしまうから。「いい曲」は沢山あるけれど、ストリーミングの中で流れていっちゃう。友達の曲でも「こんなにいい曲作ってるのに、なんで引っかからないんだろう」って曲がすごく多いんですよ。それを「いい曲」に導くために、いろんなことをしなきゃいけない。今はそういう時代だと思うんですよね。

スガ シカオ 「労働なんかしないで 光合成だけで生きたい」 Music Video short ver.

(取材・文=柴那典)

■リリース情報
『労働なんかしないで 光合成だけで生きたい』
発売:4月17日(水) 
<初回限定盤(CD+DVD/スリーブケース仕様) ¥4,600(税抜)
<通常盤(CD)> ¥3,000(税抜)

<CD>
1.労働なんかしないで 光合成だけで生きたい
2.遠い夜明け (テレビ東京系ドラマBiz「よつば銀行 原島浩美がモノ申す!~この女に賭けろ~」主題歌)
3.あんなこと、男の人みんなしたりするの? 
4.am 5:00
5.おれだってギター1本抱えて 田舎から上京したかった
6.ドキュメント2019 feat.Mummy-D 
7.スターマイン
8.黄昏ギター
9.マッシュポテト&ハッシュポテト
10.深夜、国道沿いにて 

<DVD>
『SUGA SHIKAO MUSIC VIDEO 2012-2018』
01.Re:you
02.アイタイ
03.アストライド
04.あなたひとりだけ 幸せになることは 許されないのよ
05.真夜中の虹
06.大晦日の宇宙船
07.雨ノチ晴レ(田島ルーフィング企業CM)
08.トワイライト★トワイライト
★「ぶらり途中下船できない旅」

■ツアー情報
『SUGA SHIKAO TOUR 2019 ~労働なんかしないで 光合成だけで生きたい~』
4月27日(土)神奈川 厚木市文化会館
4月29日(月・祝)静岡 グランシップ中ホール・大地
5月6日(月・祝)宮城 仙台電力ホール
5月12日(日)福岡 福岡市民会館
5月19日(日)富山 黒部市国際文化センター コラーレ
5月26日(日)北海道 わくわくホリデーホール
5月31日(金)愛知 名古屋市公会堂
6月8日(土)大阪 オリックス劇場
6月9日(日)大阪 オリックス劇場
6月15日(土)新潟 新潟県民会館
6月16日(日)栃木 那須塩原市黒磯文化会館
6月22日(土)東京 NHKホール
6月23日(日)東京 NHKホール
6月28日(金)香川 レグザムホール(香川県県民ホール)小ホール
6月29日(土)広島 三原市芸術文化センター ポポロ

スガ シカオ オフィシャルサイト

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