ヨルシカ、ずっと真夜中でいいのに。、美波……J-POPシーンに台頭するネット発女性ボーカルの音楽

物語を楽曲とともに体験できるヨルシカ

 ヨルシカはもともとボカロPとして活動していたn-bunaと、ボーカルとして参加していたsuisによって結成された2人組ユニット。作詞作曲は全曲n-bunaが務める。2017年に公開された「言って。」は現在3,000万回以上再生され、今年4月10日には1stフルアルバム『だから僕は音楽を辞めた』を発売した。

ヨルシカ - だから僕は音楽を辞めた (MUSIC VIDEO)

 全編を通してピアノが印象的。音楽に対して投げやりになってしまった主人公の心情を、語りかけるような口調で表現した歌詞になっている。「言って。」では淡々とした女性ボーカルが乗っていたため初期の相対性理論を彷彿とさせる音楽性であったが、今作では感情を激しく出すような歌声を見せているため前述した2組のような荒々しさがある。アルバム『だから僕は音楽を辞めた』は、「音楽を辞めることになった青年が”エルマ”という女性へ向けて作った楽曲」というテーマのもと制作されている。そのため、物語をリスナーが楽曲とともに体験できるような作品に仕上がっている。そうしたコンセプチュアルな作風がヨルシカの特徴だ。

重要なのは心を揺さぶる”楽曲の力”

 彼女たちの音楽には聴く者の心を揺さぶるパワーがある。そして、感情を曝け出したような言葉による生々しい歌詞が、疾走感あるバンドサウンドや映像表現によって引き立ち、想像力を掻き立てる。音楽を聴かせるというよりも、”音楽を見せる”ことで多くの視聴者にリーチしているようだ。amazarashiやEve、さユり、神様、僕は気づいてしまったのような近しい音楽性のアーティストと時を同じくしつつも、ここに挙げた3組はネット上にアップした作品そのものが起爆剤となって人気が波及している印象がある。それは、一時期のBUMP OF CHICKENのフラッシュ動画ムーブメントにも似た現象だ。あの時のように、既存の音楽シーンの枠組みでは捕獲出来なかった若者たちの覆い隠された琴線に触れる何かを、彼女たちはいち早く掴み取っているように思える。

 また、こと女性ボーカルにおいては作家音楽の力が根強い音楽業界で彼女たちの台頭はそれ自体がカウンター的だ。今までの商業音楽にはなかったような表現や、多彩な感情の込め方、ネットを主戦場とした活動スタイルなどは、アーティストの自己表現の新しい形を提示しているとも言えるだろう。そして、女性ミュージシャンというと往々にして作品そのものよりも容姿やアイコン性が求められがちだが、彼女たちは顔を隠し、自分たちの言葉を歌にしている。彼女たちが人気を拡大している背景から、世の中に働いている力学の反動として捉えることも可能だ。それによって純粋に作品が評価され、その先に作者のパーソナリティが支持される流れができている。彼女たちの登場以降、ネット上の音楽シーンはさらに”楽曲の力”が要求されるかもしれない。

■荻原 梓
88年生まれ。都内でCDを売りながら『クイック・ジャパン』などに記事を寄稿。
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Twitter(@az_ogi)

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