高橋優のソングライター人生に休止はないーー“再出発”の決意を見せた横浜アリーナ公演振り返る

高橋優、横浜アリーナ公演レポ

 “高橋優は目が笑ってない”。自虐的なネタをユーモラスに語るMCに、笑いの渦が巻き起こった。そのままコミカルでちょっぴり不気味な「いいひと」へ、曲中でわざと“死んだ目”をしてみせるなど、メッセージを伝えながらも楽しませる姿勢を忘れないのが高橋優。ライブ中盤にあたるこのセクションでは心地よいミドルテンポの楽曲を揃え、明るいフォークロック調の「シンプル」から推進力たっぷりのロックチューン「キャッチボール」、せつなさを噛み締める「若気の至り」へと徐々に高まるエモーションは、「非凡の花束」で頂点に達する。〈記念日じゃないけど君に花束を――〉。すべての平凡な日々と、それを懸命に生きる人への賛歌が、広いアリーナを大きな優しさで満たしてゆく。

 「非凡の花束」が今を肯定するなら、「プライド」は今から始まる未来を肯定する、熱いロックバラード。アルバム『STARTING OVER』の中には、様々な意味で自分を肯定し、走り出すことをけしかける情熱的な歌が実に多い。ドラムスとベース、ギターとキーボード、バイオリンを加えたバンドは堅実に力強く、何よりも歌と言葉が聴こえるように気を配る。バランスは最高だ。

「横浜のみんな、元気は残ってますか! ヤバいとこ見せてくれますか!」

 じっくり聴かせる歌が続いた後は、攻撃的ロックチューンでひと暴れ。七色のライトが輝く中、アップテンポで突っ走る「象」、そしてコミカルなアニメ映像がばっちりハマった「高野豆腐~どこか遠くへ~」。さえない日常をひっくり返す“逆ギレロック”、これもまた高橋優の得意技。「虹」でほっこり和ませたあと、再びテンションを上げて「Harazie!!」へ。ジェームス・ブラウンばりの強力なファンクビートに乗り、お腹いっぱいを意味する“ハラッツェ!”や“ケ!”“ハッ!”など、秋田弁を駆使したコール&レスポンスが楽しい。どこを見渡しても笑顔しかない。さらに「明日はきっといい日になる」「こどものうた」と、硬軟取り混ぜたアッパーな曲の連発に会場は一気に沸騰。フィナーレはもうすぐそこだ。

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「みなさんの熱、声、本当にヤバいです。この道の先にどんなことが待っていても、今日ここで感じたことを絶対に忘れないで歩いていきたいと思います」

 本編ラストを飾ったのは「ありがとう」。アルバムの中でもとりわけシンプルにストレートに、人と人とが共に生きてゆくことの素晴らしさを綴ったミドルバラード。難しい言葉も哲学的表現も使わない、高橋優ならではのリアルタイム・ラブソングは、どこまでも誠実で純粋なものだ。

 ここまででたっぷり2時間20分。ハラッツェ? いや、まだまだ。スクリーンの中では秋田名物なまはげが踊りだし、会場全体がタオル回しの風で揺れる、アンコールの定番曲「泣ぐ子はいねが」でもうひと暴れ。一転して「ロードムービー」では、力強いフォークロックに乗せて伸び伸びと。ステージ背後に星の電飾が瞬き、流れ星が一つ零れ落ちる、美しいシーンが目に焼き付いた。そして充実のライブを締めくくったラストチューン「リーマンズロック」の最後を飾る、〈生きていけ〉というたったひとことに込めた万感の思い。このひとことのために今日のライブはあったんじゃないか。そう思うほどに美しく切実な〈生きていけ〉がそこにあった。

 明るくなった開場内に鳴り響く「STARTING OVER」のBGMに合わせ、思わずマイクをつかんで歌い出す高橋優は、正真正銘、満面の笑顔。再出発の決意を胸に、横浜アリーナを埋めたファンの期待を背に、今を駆け抜ける高橋優のソングライター人生に休止はない。常に一番新しい今日を歌い続ける、高橋優の歌を聴くために僕らはまたライブに足を運ぶ。

(取材・文=宮本英夫/写真=新保勇樹)

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