集団行動 真部脩一に聞く、グッドミュージックの定義「いい音楽は趣味性と普遍性を兼ね備えている」

真部脩一に聞く、グッドミュージックの定義

物事は崩壊の可能性を秘めているから美しい

ーー『SUPER MUSIC TOUR -SUPER編-』の前に休日課長と対談をされていましたが、「グッドミュージックの定義」みたいなものが揺れているという話が印象的でした。

真部:グッドミュージックと呼ばれるものの定義のされ方が、わりと独特だと思っていて。例えば「売れないけれど実は作りがよくて、よく聞いたら良さがわかる」みたいな、趣味性の高いものがそう呼ばれている気がするんです。でも本来、いい音楽というものは趣味性と普遍性を兼ね備えているものだと思っていて、だからこそメインストリームを勝ち取ることができる。そこは自分自身の作品に対しても見直す部分があるというか。難しいのですが、どこかで聴いたことのある感じ、というのを普遍性の定義に置きつつ、過去のグッドミュージックに対する懐古的なアプローチに終わってしまわないよう気をつけています。

ーー面白いですね。グッドミュージックの追求という意味では、海外のヒップホップやEDMの動きを踏まえて、J-POPにおいても低音域を重視していく流れもあります。真部さんが考えるJ-POPへの介入の方法は、そうしたものとも違いますね。

真部:それに対しては自問自答もよくするんですけど、単純にこのバンドでの制作スタイルがベースミュージックにあまり適していない、というのがありますね。また、僕は新しいテクノロジーを使い回すのはあまり上手ではなくて、テクノロジーを駆使する音楽に対してはちょっと距離を置いてしまうところがあるんです。集団行動では、どちらかというとテクノロジーという皮を剥がしたところにあるものとしてのオリジナリティーを効かしていきたいなと思っていて。だから、例えば「落語」のようなフォーマットに注視したい。

ーーなるほど。そうした点でいうと、集団行動の音楽では伝統的ともいえるギターサウンドが重要な位置にありますよね。

真部:やっぱり自分のポップスのベースにアメリカの音楽があり、そのアメリカのポップスのルーツにブルースが関与しているのが大きくて。だからギターという楽器が好きだなって、最近あらためて思うんです。不完全さがそのまま魅力になるロックギターが大好きだと。ただ今回は、バンドとしてのアンサンブルがまとまってくるのに従って、ギターが地味になっていくっていう(笑)。まあ、主張するのがいいって訳でもないですけどね。弾き足りなさを感じるあたり、いよいよギタリストらしくなってきました(笑)。

ーーアルバムでも「パタタス・フリータス」や「セダン」のようにアメリカの音楽、ブルースやロックンロールを感じる曲も多いですね。

真部:そうですね。オールディーズをやりたいというわけでもなく、Dire Straitsやブライアン・セッツァー、ベラ・フラックとかをイメージして作った曲です。パンク、ニューウェイブを踏まえた上でのルーツ・ミュージック。ニューウェイブ後期というか、80年代後半くらいのイメージに近いかもしれないですね。

ーー先行配信された「ザ・クレーター」は、アルバムの制作初期の頃の曲ですか?

真部:アイデアが出てきたのは最初の頃ですね。まだ葛藤があった時期で、ライブで披露したり、レコーディングしたり、というのは少し後でした。当初、この曲は足かせに感じていた「自分の持ち味」みたいな部分に近かったんです。だからしばらく寝かせていて、最終的に「いまのバンドの状態だったら、いい意味で自分の手を離れてくれるかもしれない」と思って、レコーディングしました。

ーー歌詞に関しては、真部さんの人生観というか、物事には不可逆な瞬間が訪れる、という見方が伝わってきます。

真部:これは日本人の美意識だと思うのですが、物事は崩壊の可能性を秘めているから美しいというか。僕はその刹那な感じがすごくポップだなと思うんです。示唆的だけれども説教臭くない、あえて共感を強要しない感じがあるというか。

ーーその刹那的なものは、いまのポップスの中では新鮮に聞こえます。前向きなメッセージが多いなかで、いい意味で暴力的に響くというか。

真部:歌詞に書いたような思いが、自分に無意識にどこまであるかはわかりませんが、例えば「1999」という曲がありますけれども、僕は1999年当時、超多感な時期の15歳で、なんというか「終わり」の感じが刻み込まれているんですよね。

ーー終末観のようなものが。

真部:はい。だから、以前から僕は「バンドで青春を取り戻します」と言っていたのですが、そういうところが具現化しているのかなと。あとは文字通り、バンドが終わりそうだったので(笑)。

ーー先日のライブを見る限り、バンドは復活しています(笑)。正式加入したベースのミッチーさんの存在感も大きかったですが、彼はバンドでどういう存在ですか?

真部:ムードメーカーで、いい意味でいったん物事をリセットしてくれる人ですね。あと、トラブルメーカーでもある(笑)。それからミッチーさんは、僕が絶対に弾けないベースが弾ける、天才型なんです。一度、レコーディングにデモも聞かず、暗譜もせずに来て、そのままブースに入ったことがあって。初見で弾ける人ならいいんですけど、ミッチーさんはそうじゃないから、びっくりしたんです。それで説教したんですけど、結局、特に問題もなくテイクが録れちゃったんですよ。自分の理解の範疇を超えた人なので、ある意味、自分が行き詰まったときにミッチーさんを通過することで、リセットされる。自分のストーリーを要約して、あらすじに戻してくれる人なんです。そこで、自分の作品の強度を確認できるというか。

ーーそうして生まれた作品に、「商業音楽のすべて」というコピーがつけられています。

真部:前作のインタビューで、「自分の独自性のあるメロディーラインと、既存のポップスのクリシェみたいなものをきれいに融合させる」という話をさせていただいたんですが、今回、それを実現したと思っています。自分の頭のなかで鳴っていた、架空のヒットチャートを実際に形にできているな、という感じがあるので、これからは「架空の」という部分を取り除いて、「王道」という部分をもう少し突き詰めていきたいなと思っているところです。バンドがいい意味で僕の手をちょっと離れて、これからどうなっていくか、メンバーの化学反応も含めて予測不可能なところがありますが、いまの状態がなるべく長く続けばいいなと思います。

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(取材・文=神谷弘一/写真=三橋優美子)

■リリース情報
『SUPER MUSIC』
発売:2019年4月3日(水)
(初回限定盤)2CD ¥3,900(税抜)
(通常盤)¥2,800(税抜)
〈CD〉初回盤、通常盤共通
01 SUPER MUSIC
02 1999
03 テレビジョン 
04 皇居ランナー 
05 セダン 
06 クライム・サスペンス
07 スープのひみつ
08 婦警さんとミニパト
09 ティーチャー? 
10 パタタス・フリータス
11 ザ・クレーター 
12 チグリス・リバー
 
〈CD2〉
01 ホーミング・ユー
02 東京ミシュラン24時
03 土星の環
04 充分未来
05 鳴り止まない
06 オシャカ
07 タイムリミット(Demo)

■ライブ情報
『SUPER MUSIC TOUR -MUSIC編-』
4月18日(木)愛知 名古屋CLUB UPSET
4月19日(金)大阪 大阪Music Club JANUS
4月28日(日)東京 渋谷WWW X

オフィシャルサイト

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