メル、3年ぶりアルバム『Funeral』から醸し出される90年代ロック愛とその真意

メル『Funeral』インタビュー

再生数よりも、どんどん曲を作ってどんどん出したい

――「デーモン」もめちゃくちゃ好きで。疾走感がありつつもダークさの裏返しみたいな感じもあって。影のあるポジティビティがいい感じだなと。

デーモン / flower

メル:その通りですね。

――これもまた手ごたえあった曲なんじゃないですか?

メル:はい、今でもめっちゃ気に入ってますね。メロディがキャッチーでサウンドが洋楽っぽいっていうのをやりたくて。「デーモン」はそれが上手くできてました。コードはすごい日本っぽいんです。いろいろ使っていて。海外だと2コードでもいいんですけど。「デーモン」はサビだけでも14種類くらいコードを使ってて。メロもめっちゃ動いてます。なのにオケはニューウェーブっぽいというか。

――そのバランス感覚、センスがメルさんのサウンド世界観を生み出していくのですね。曲順はどんな風にして決まっていきましたか?

メル:「夜の淵」って曲は最初から1曲目と決めていました。そこから繋ぎがいい感じの曲を繋げていったらこうなったって感じです。ちなみに「夜の淵」と「アフターアワーズ」と「レクイエム」と「最果て」の4曲がわりと最近作った曲なんです。あと「ピンク」も。その辺の曲が、いま本当に一番やりたいことですね。ダークな感じがあるんだけどポップみたいな、上手く表現できてるんじゃないかなと思っています。

――歌詞によるストーリー展開やサウンドへのこだわりから伝わりますが、メルさんにとってダーク感ってどんな要素なんですか?

メル:ああ、感覚でしかないんですよ。説明しづらいですね……。でもやっぱり、映画からの影響は大きいですね。ホラー映画からインスパイア受けることもあるので。結果、全然違う曲ができるんですけどね。あとは、普通歌詞にしないようなタブーとされている単語をいれることにめっちゃハマっていて。そういうところからダーク感が出ているかな。

――なるほどね。YouTubeやニコニコ動画などの動画サイトだと、再生回数やコメント数が評価の指標になりますよね? バンドだとある程度ライブハウスというセグメントされたクローズドな枠に守られているけど、ボカロPの方って作品をさらされながら生きていくじゃないですか? どんな人でもアクセスできるというか。その分、他のシーンに比べて成長できるスピードが速いんじゃないかなと思って。

メル:いま言われて気づきました。

――それについてはどう思います?

メル:確かに、って思いました。再生数とか僕は一時期めちゃくちゃ気にしてたんです。でも、「あまい」を出した時期くらいからわりとどうでもよくなってきて。再生数よりも、どんどん曲を作ってどんどん出したいなって気持ちが強くなってきています。その変化が最近ありましたね。

――米津玄師の大ブレイク以降、ボカロ文化から派生したクリエイターの活躍が目覚ましくて。一時期は「ボカロシーンは終わった」なんてよくわかっていない大人たちが言ってましたけど、最近改めてシーンが盛り上がっています。

メル:それでいうと、シーンとしてあまり意識してないかもしれないですね。そもそもボーカロイドは感情を持たないので、どんな曲でも歌ってくれるんですよ。自分で歌うのが一番いいとは思うのですが、ボカロの良さってあるんですよね。自分での歌唱は、ようやく「キッズ」でできたって感じです。もっと出していきたい気持ちはあるんですよ。

――今後への期待感が高まりますね。ちなみに、レジェンダリーなアーティストで一番影響を受けたのは誰ですか?


メル:音楽もですけど考え方とか精神面でJoy Divisionとかですかね。めっちゃ影響を受けてるかもしれないです。あとは Nirvanaとか。1曲目「夜の淵」は、Joy Divisionっぽいですよね。めっちゃ影響があらわれていると思います。なんていうか、音楽だけではなくロックな考え方がすごい好きで。なので、自分としても曲はポップなんですけど、わりと考えてることはロックなのかなって。超薄っぺらいこと言ってますけど、とにかくロックが好きなんです(笑)。

――ニューウェーブ風な「最果て」にも洋楽センスを感じました。

メル:「最果て」は、Joy DivisionというよりNew Orderですね。Aメロをあえてチープなリズムマシンにして。そういうところとか影響を受けています。それとシューゲイザーをごちゃまぜにしたようなことをやりたくて。

――最近、ボカロ文化から面白いアーティストがたくさん登場しています。シンパシーを感じる方はいらっしゃいますか?

メル:シンパシーとは違いますけど、神山羊とかかっこいいなって思ってます。

――メルさんはご自身のなかにある知識や好きなものをコラージュ的に組み合わせて、楽曲に落としこんでいると思うんですが、それってどんな意識でやられてますか?

メル:自分の好きなアーティストもけっこうそういうことをしていて。僕みたいな人が、そんなルーツを聴いて「そういうのに影響を受けてるんだな」って知ってもらいたいんですよ。自分のリスナーにも、いろんないい音楽があることを知ってもらいたくって。

――90年代でいう、Flippers Guiter(※小山田圭吾と小沢健二によるユニット)みたいなキュレーション感覚というか、クリエイティブのハブ感みたいなセンスを感じますね。

メル:嬉しいです。自分が好きなアーティストを自分のファンがいいって言ってるのを見つけると、めっちゃ嬉しくなっちゃうんですよ。

(取材・文=ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)/写真=はぎひさこ)

メル『Funeral』

■リリース情報
メル『Funeral』
3月27日(水)発売
定価:¥2,000+税
<収録曲>
1. 夜の淵
2. アフターアワーズ
3. ゴールデンジャーニー
4. あまい
5. ピンク
6. ヴァンパイア
7. アナザー
8. ひまわり畑でつかまえて
9. レクイエム
10. 最果て
11. デーモン
12. キッズ

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