モーニング娘。はなぜ長く愛され続ける? 誕生20周年を機に“二つの側面”から考える

 こうしたメンバーの自主性尊重の精神は、もうひとつの注目点であるモー娘。独自の卒業/加入のスタイルにも生かされている。

 キャンディーズの解散を思い出せばわかるように、昭和のアイドルにおいてメンバーとグループは一体であり、運命を共にするものだった。それはそれで美しく潔い。しかしかと言って無理にグループを長続きさせようとすれば、メンバー個々の意思を抑えつけてしまうことにもなりかねなかった。

 そのジレンマを解消したのが、モー娘。独自の柔軟な卒業/加入のスタイルである。

 卒業の決断は、メンバー個々の意思に委ねられる。だがそのことは、グループの存続とは切り離して考える。だからメンバーの人数も固定されない。新メンバーは補充ではなく、あくまで加入である。

 卒業とは無関係に2期メンバー3人が加入したり、福田明日香が卒業した後の追加メンバーオーディションの合格者が当初2名の予定(実際は後藤真希1名)であったりしたのは、その証しだ。プロデューサー・つんく♂のその時々のグループ構想もあっただろうが、もう一方で元々メンバーの自主性を尊重する姿勢だったことが、そのようなかたちになったのに違いない。

 こうしてモー娘。において、おそらく初めて女性アイドルグループが続いていく仕組みが確立された。

 おニャン子クラブにも似たようなところはあったが、『夕やけニャンニャン』(フジテレビ)というテレビ番組がベースであった分、グループが長く持続していくには不安定だった。それに対し、モー娘。はテレビアイドルである一方、ライブ活動にも軸足を置いたことによってグループが長く存続するための安定した基盤づくりに成功した。

 その結果、ファンにとって特定のメンバーではなくグループそのものを応援するいわゆる「箱推し」の比重も増した。メンバーの卒業や加入があるたびに、ファンはさまざまな思いを抱きつつ歴史の目撃者となってモー娘。という「箱」を見守り、支え続ける。その卒業/加入のスタイルは、アイドルグループを応援する喜びをより深いものにしてくれたと言えるだろう。

■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『SMAPと平成ニッポン 不安の時代のエンターテインメント』(光文社新書)、『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』(双葉社)、『木村拓哉という生き方』(青弓社)、『中居正広という生き方』(青弓社)、『社会は笑う・増補版』(青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。

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