『Red Bull Music Academy』が示す“コミュニティの重要性”とは? ベルリン現地レポート

『Red Bull Music Academy』現地レポ

(写真=©Thomas Meyer / Red Bull Content Pool)

 今回の舞台となったのは、旧東ベルリン郊外に位置する歴史的な録音スタジオ「ファンクハウス」(Funkhaus)。サッカー競技場25個分の広大なエリアに設立されたこの建物は、ベルリンの壁崩壊以前、東ドイツが運営する国営ラジオの放送局であったという共産主義時代の長い歴史を持つ。ファンクハウスのファンク(Funk)はドイツ語で「ラジオ」を意味する。1970年代には3500人以上の職員が働いていたこの場所には、今でもある種の威圧感が随所に漂っている。

 冷戦終焉とともに閉鎖されたラジオ放送局だが、ファンクハウスはその後も変化を続け、アーティストやクリエイターが集まる最先端の設備を備えた現在も、カルチャー発祥の場所として機能している。ファンクハウスは今、旧東ドイツを代表する建物として重要文化財に認定されているそうだ。音楽スタジオを重要文化財に認定するという、ドイツの音楽に対する愛情を感じさせてくれる話だ。

(写真=©Thomas Meyer / Red Bull Content Pool)

 ファンクハウスの内部も紹介したい。複数の録音スタジオを軸に、広大なオーケストラ用の演奏ホール、ワークショップ用のスペース、コワーキングスペースなどで構成されるこの世界最大級の複合型クリエイティブキャンパスの圧倒的な巨大さに驚かされる。特にフルオーケストラの録音に使われる「Studio1」は、900平方メートルという巨大なスペースに加えて、階段状の客席、高々とした天井に囲まれた異様な存在感がある。スペースの中に一歩足を踏み入れただけで、スケールの大きさと厳かさに圧倒されるだろう。

(写真=©Thomas Meyer / Red Bull Content Pool)

 独特の幾何学的な設計、合理性かつ機能的なサウンドエンジニアリング、政治的な威厳が融合したファンクハウスは、ドイツ特有のエレクトロニックミュージックの世界観やテクノロジー文化の要素が随所に感じられる。ここでは、2018年には坂本龍一とドイツの電子音楽家アルヴァ・ノトのライブをはじめ、サクソフォン奏者の清水靖晃、Aphex Twinといった世界的なアーティストのライブが開催されたほか、クラブイベントやカンファレンスなど幅広い用途で活用されていることも納得できる。

 9月8日から約1カ月に渡り開催された『Red Bull Music Academy』に参加したアーティスト61名は、このファンクハウス内でお互いに交流を深め、コラボレーションしながら、音楽制作やワークショップを行っていった。期間中のファンクハウスは、ベルリンに拠点を置くデザインスタジオ『New Tendency』が手がけたカスタムメイドの家具や未来的なインテリアで飾られ、一般的な内装とは一段と異なる、想像力を刺激する演出が会場の至るところにあり、歩き回るだけでサプライズの連続だった。

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