特撮ソングはなぜ人の心を熱くさせる? 近年のスーパー戦隊シリーズ楽曲と渡辺宙明の功績から考察

スーパー戦隊シリーズの音楽の礎を築いた渡辺宙明

 スーパー戦隊シリーズの主題歌はいつでも革新的だった。それはひとえにスーパー戦隊シリーズの音楽の礎を築いた渡辺宙明の功績だと考えて間違いない。

 渡辺宙明はアニメ・特撮音楽を300曲以上作ってきたパイオニアだ。『マジンガーZ』、『鋼鉄ジーグ』などのアニメソングは今なお世界中で愛されている。手がけた特撮ソングも数知れず。スーパー戦隊シリーズのルーツである『秘密戦隊ゴレンジャー』、『ジャッカー電撃隊』の両作品、第1作の『バトルフィーバーJ』から第4作の『大戦隊ゴーグルファイブ』の主題歌と劇伴を担当した。その後も断続的にスーパー戦隊シリーズの音楽に携わっている。現在93歳だが、まだまだ現役だ。

 一聴してわかる「宙明サウンド」の特徴は、パンチの効いたビートとブラスサウンド、「バンバラバンバンバン」などのスキャットなどが挙げられる。

 『人造人間キカイダー』(1972年)で初めて特撮ソングを依頼された渡辺はレコード店に行き、それまでの子ども向きヒーローのレコードを買い漁って聴いてみたが、朗らかなマーチ調の曲が多く、気に入るようなものがまったくなかったという。そのとき、渡辺はこう思った。「他にないようなテイストの曲をつくってやろう」。

 渡辺宙明こそ、革新性の塊のような作曲家だ。作曲家を志した戦前からピアノを学び、音楽に心理学が活かせるのではないかと考えて東京大学文学部心理学科で学んだ。團伊玖磨と諸井三郎に師事して作曲を学び、映画音楽などの仕事をするようになってからも渡辺貞夫からジャズの音楽理論を学んだ。その後もレコードを片っ端から買い、聴き漁った。街で気に入った曲が流れてくるとその場で五線紙に書き取ることなどもしていた。

 アフリカの民族音楽にも傾倒し、民族音楽学者・小泉文夫と交流を持った。小泉が研究していたのが、「ラドレミソ」のように「シ」と「ファ」を抜いた「2・6抜き短音階」(マイナーペンタトニックスケール)だ。アフリカ系アメリカ人の音楽の元になった音階で、世界各地の民謡などでも使われている。日本でヒットしている歌謡曲にもこの音階が使われていることを発見した小泉は渡辺に伝え、渡辺はその知識をもとにロックテイストを大きく採り入れて『人造人間キカイダー』の主題歌「ゴーゴー・キカイダー」を作曲した。渡辺自身は「宙明サウンド」の核にこの「2・6抜き短音階」があると繰り返し説明している。この音階は聴く人に高揚感をもたらすメロディになるのだという。

 渡辺は、新しい理論や実験的な手法をためらいなく採り入れ続けた。『電子戦隊デンジマン』の主題歌「ああ電子戦隊デンジマン」にマニピュレーターとしてYMOなどのサポートとして活躍していた松武秀樹が参加しているのは有名な話。『太陽戦隊サンバルカン』では山川啓介の詞を活かすため、「2・6抜き短音階」を捨てて歌謡曲調にした(この当時、スーパー戦隊シリーズの主題歌は詞先だった)。すべては子どもたちのため。そして子どもたちが成長した後にも愛聴してもらうため。

「僕は、現代でも通用するような分かりやすくて、しかも子供の音楽だけど、子供っぽくない音楽、その子がのちに青年になり大人になっても愛されるような音楽にしたい、ということを最初から心がけていたんです」(参照:MURO×渡辺宙明が語る、ヒップホップと特撮・アニメ音楽の共通点「どの作品も実験的」

 渡辺宙明の革新性と「ファンのために」という心は、今の特撮ソングのクリエイターたちにも受け継がれている。こうして日々、特撮ソングは人々の心を熱く燃やし続けているのだ。

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

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