ジェシカ・プラット、シャロン・ヴァン・エッテン……インディシーンの注目SSW新作5選

ジュリアン・リンチ『Rat's Spit』

ジュリアン・リンチ『Rat's Spit』

 音楽民族学と人類学を研究する宅録シンガーソングライター、ジュリアン・リンチが、5年振りのソロアルバム『Rat’s Spit』を完成させた。前作から時間が経った理由のひとつは、2016年からリードギターとして加入したReal Estateでの活動だろう。しかし、同時にバンド経験は刺激にもなったはず。本作の制作にあたっては、ロバート・フリップ、スティーヴ・ヴァイ、ヘンリー・カイザーなど、非凡なテクニックに加えて音響的なギターサウンドを得意とするギタリストたちの作品にインスパイアされたとか。エフェクティブなギターサウンドを重ねて作り出されたサウンドは、リンチ流のシューゲイザーといえるのかもしれない。そこに多重録音して膨らみを増した歌声が乗る。実験的でアブストラクトなサウンドに繊細な歌心を忍ばせた歌は、アーサー・ラッセルに通じるものがある。

イ・ランと柴田聡子『ランナウェイ』

イ・ランと柴田聡子『ランナウェイ』

 韓国で注目を集めるシンガーソングライター、イ・ランと、3月に新作『がんばれ!メロディー』のリリースを控えている柴田聡子がコラボレート。きっかけは、2016年にふたりで日本をツアーしたこと。そのツアーの名前が『ランナウェイ・ツアー』だった。ツアー終了後、イ・ランは再び来日してレコーディングに挑んだ。どちらも強烈な個性の持ち主ながら、演奏やハーモニーは驚くほど息はピッタリで、それぞれの作風もすんなり馴染んでいる。どちらもユーモアのセンスの持ち主だが、そのセンスに通じ合うものがあったのが成功の鍵かもしれない。ツアー中に食べた美味しいものを、次々と挙げてアカペラで歌う「おなかいっぱ〜いです」の楽しそうなこと。そしてまた、二人はマフラーを編むように、心を込めて美しいメロディと言葉を曲に編み込んでいく。それぞれが1曲ずつ曲を提供。3曲を共作しているが、ツアー時に披露した共作曲「Run Away」は、二人の歌心が融け合った珠玉のナンバーだ。「Run Away」のインストバージョンを含めて全6曲とコンパクトだが、ツアーを見た時の感動が甦る幸福感に満ちた一枚。初回限定盤なのでお見逃しなく。

[MV] 이랑 イ・ラン 시바타사토코 柴田聡子 - Run Away

■村尾泰郎
ロック/映画ライター。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CULÉL』『OCEANS』などで音楽や映画について執筆中。『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』『はじまりのうた』『アメリカン・ハッスル』など映画パンフレットにも寄稿。監修を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)などがある。

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