佐橋佳幸×Dr.kyOnが語る、佐野元春らと作り上げた無国籍サウンド「Darjeelingに予定調和はない」

Darjeeling、佐野元春らと作った無国籍サウンド

Darjeelingの根幹にあるのは“無国籍感”

――はい。続いて2曲目「砂雪」。これは河口恭吾さんのボーカルをフィーチャーしていますが、歌詞を鈴木慶一さんが書かれています。慶一さんにお願いしようというのは、どういうところから?

kyOn:もともとの曲のイメージから、「慶一さん、どうかな」って。慶一さんなら、リアルで過度な表現というよりは、奥に何かが潜んでいるようなイメージを表現してもらえると思ったんです。リリースが1月ということだったので、しんしんと降る雪のイメージというか。で、それを河口恭吾の声という、まあひとつの楽器というかな。それによって表現することで、イメージしていたものがさらに実現できた。書いた人が歌うと、シンガーソングライター的なものになってしまって、その人の持つ意味がついてしまう。この曲はそうじゃないほうがいいと思ったんですよ。

佐橋:恭吾が歌ってくれるってなったのは、慶一さんが書いてくださることになったのと同じ時期で、慶一さんは恭吾が歌うと知った上で書いてくださった。恭吾が歌うのがいいなと思ったのは、わりとハイトーンで、クセのない歌い方をする人がいいなと思ったから。でも歌詞を見た恭吾は「ミュージカルのなかの曲みたいなイメージでいいですかね?」って相談してきて、普通のラブソングとは違う歌だってことをどうやって表現するかということを考えてくれて。自分ではあまりやったことのない歌い方だと言ってたけど、それがよかったみたいですね。

――要するに、エモーショナルになりすぎない歌唱表現ってことですよね。

佐橋:そうそう。それがいいなと思って。まさに、しんしんと降る雪のイメージ。もともとインストでやってた曲に、どういう歌詞と歌が乗ることで、違う表情がついていくか。それがこのシリーズの大きな楽しみなんだけど、これはその喜びが特に大きかった曲ですね。

――3曲目「POP OUT OF THE TEA CUP」。これは小川美潮さんが歌ってます。美潮さんは、おふたりとも長いんじゃないですか?

佐橋:長いですね。この曲はライブで頻繁にやっていた曲なんですけど、kyOnさんが美潮ちゃんがいいんじゃないかと思いついて、確かにそれは面白そうだなと。

kyOn:ちょっとロックのオペラみたいな感じのある曲で、オクターブをそのまま歌える人ってなかなかいないなと思ってたんですけど、「あ、いたいた」って(笑)。

佐橋:それを喜んでやるような人って美潮ちゃんしかいなくて。じゃあ歌詞も美潮ちゃんに書いてもらおうってことになり、ちょうどこの曲に参加している古田たかしの還暦ライブがあったときに、kyOnさんも美潮ちゃんもそれに出ることになっていたので、kyOnさんが直談判したという。

――ジャズ的な感覚もあり、童謡っぽさもあり。確かにあんなふうに歌える人はいませんね。強いて言えば矢野顕子さんくらい。

佐橋:うん。なかなかいないですね。美潮ちゃん、久しぶりに会ったけどなんにも変わってなかった。すごいと思った。

――〈まずはお茶 うまく淹れて〉とか、どこかDarjeelingのテーマ曲のような趣もある歌詞ですね。

kyOn:4作目にして、期せずして(笑)。

佐橋:そもそも僕がイメージするDarjeelingっぽい曲って、まさにこれなんですよ。

――そのDarjeelingっぽさというのを言葉にすると、なんでしょう。

佐橋:なんでしょうね。無国籍感かな。無国籍だけど、ちゃんとロックだし。みんなで、「Procol Harumだね」って言いながら演奏してました(笑)。

――ははは。確かに。あと、kyOnさんのピアノによるブギウギの感じが70年代のストーンズ(The Rolling Stones)っぽくもある。

佐橋:ああ、ニッキー・ホプキンスっぽいですよね。そう考えると、ちょっとブリティッシュっぽいんですよね。

kyOn:うん。

――続いて4曲目「Greedy Green」。室内楽的な曲で、気品があります。

kyOn:もともと室内楽的な音にしたかったので、それを遂に実現できたという。

佐橋:『共鳴野郎』や新世界でライブをやっていたときも、ピアノの連弾のコーナーというのがありまして。僕も頑張ってピアノを弾くわけですけど、これはそのために作られた曲なんですよ。で、kyOnさんは毎回ライブを録音して、記録として残してくれてたんですけど、ある日の連弾がものすごくよかったと。それをエンジニアの飯尾(芳史)さんに整えてもらって、(山本拓夫の)クラリネットとフルートと、(笠原あやの)チェロを入れてもらって完成させたのが、この曲で。

――もとはライブ音源なんですね。だから最後に観客の拍手も残されている。

kyOn:そうです。

佐橋:新世界というライブハウスはアップライトピアノがあったんですが、そこにkyOnさんとふたりでこう、重なる感じで連弾をしててね。僕が真ん中で弾いて、kyOnさんが後ろから手を伸ばして上と下のパートを弾く。二人羽織みたいになるわけです(笑)。その様子がおかしいってことで、みんな大笑いしてるんですよ。だけど内容は素晴らしくてね。

――まさしく紅茶を飲みながら聴きたくなる曲ですね。そして5曲目は山下久美子さんのボーカルをフィーチャーした「Seasickness Blues」。

佐橋:紅茶にまつわる曲をふたりで作っていたときに、紅茶の歴史の本を読んでいて、「この頃にイギリスとインドを船で渡るのって大変だっただろうな。当然、船酔いしただろうな」って思ったんですよ。それで、そういう曲を作ってみようと思ってリフから作り始めたら、変拍子になっちゃった。で、kyOnさんが「この曲は絶対、女性ボーカルがいいよ」って言って、そう言われたらもう女性の声しか聞こえなくなってね。じゃあ誰がいいかって話になったんだけど、その前に歌詞はどうしようかと。

――KERAさんが作詞されてます。どういう経緯でKERAさんに?

佐橋:たまたま有頂天のベースの人がクラウンレコードでディレクターをやっているんですよ。それで有頂天の話になって、僕もkyOnさんもKERAさんのこと知っていたので、船酔いの曲をKERAさんにお願いしたら面白いんじゃないかと。それで直電したら、「やるやる!」って。そうこうしているうちに久美ちゃんが歌うってことも決まって、「これは面白い組み合わせだね」と。久美ちゃんが歌うと、どことなく少年っぽい感じになるんですよ。

kyOn:船に揺られて大人が吐いてるなかで、そういう大人を元気にする“小さなバイキング、ビッケ”みたいなイメージ。

――なるほど、大人を元気にする少年のような歌声というのは、よくわかります。それに、こんな変拍子の曲なのに楽々と乗りこなしている。少しも難しそうじゃなく、ポップに感じられるんですよね。

佐橋:でしょ?  そこが久美ちゃんのすごいところなんだよなぁ。キー合わせのときも「これって、拍子、ヘン?  あ、そっか。わかった、覚えてくる」って涼しい顔で言ってて(笑)。ちなみに僕とkyOnさんがこの曲でやりたかったのはLittle Featで、そういう意味でも、佐野(康夫)くん、清水興さん、田中倫明さんという3人のスケジュールがうまくハマったのはよかったです。

――久美子さんには、Little Featって伝えてあったんですか?

佐野:いや、特に誰にも言ってなかったんだけど。

kyOn:まあ、演奏してるメンバーは暗黙の了解で(笑)。このふたりがやりたいのはそれだろうとわかっていたでしょうから。

――6曲目「Oh Mistake!」。「POP OUT OF THE TEA CUP」同様、リズムセクションは古田たかしさんと井上富雄さんで、つまりほぼThe Hobo King Band。

佐橋:そう。この曲と8曲目の「21st. Century Flapper」は新世界でやるようになってからできた曲で、新世界はもともと串田和美さんの自由劇場だったところなので、そんな縁もあってお芝居にまつわる曲にしようと。「Oh Mistake!」というタイトルも、自由劇場で上演されてたお芝居の題名を流用したもので、それがアイデアの元になっているんです。これはなんというか、ベイエリアっぽいというか。

――エレキシタールが入っていてエキゾチックサウンドっぽくもあるし。

佐橋:ちょっとドアーズ(The Doors)感もあるしね。あとなんといってもこの曲は、最後に出てくる仕掛けがすごくて。

kyOn:四拍五連。

佐橋:要するに、1小節を5で割るっていう。それが山場の曲で。kyOnさんは割り切れるって言うんですよ。3連のほうがよっぽど割れないと。

kyOn:3連っていうのは、つまり3分の1だから永久に割れないじゃないですか。だから3連の演奏というのは、割り切れないものを割り切れたと了解して演奏している。でも5連というのは0.8ずつ弾けばいいわけだから。

――「わけだから」と言われても、難しくてちょっと理解できないですけど。極めて理数的な。

佐橋:ね。kyOnさん、そういう人なんですよ(笑)。それでみんな、演奏していてその場所が近づいてくると、緊張した顔になってました。くるぞくるぞって。独特の緊張感がありましたね。

kyOn:それによって、むしろ演奏の個性が出るんですよ。慣れたらできるんだけど、慣れないで探り合いながらやるのがいい。

――そうやって曲のなかに自分たちがドキドキするような何かをあえて入れたくなるわけですね。

kyOn:そうですね。スムーズな流れを妙に遮るブレーキのようなものを考えたときに、5連をもろにやるっていうのは、あんまりないなと思って。

――聴き手を驚かせる前に、自分たちがドキドキすることを楽しもうと。

佐橋:はい。しかもそれをふたりでやるんじゃなくて、5人でやるというのが、5人5様で楽しかったですね。

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