w-inds. 橘慶太×Yaffle(小島裕規)対談【前編】 楽曲制作におけるアレンジの重要性

橘慶太×Yaffle対談【前編】

ビートの面白さは他の音との兼ね合いで決まる 

橘:普段曲はどういう作り方をします?

小島:僕はビートから作ることが多いんですけど、意外とそういう曲はボツになることも多くて。先にリフが入ってくると早かったりしますよね。曲を引っ張るアイデアというか、そういうものがあると自分の中でも意欲が湧いてくるけど、ビートから作ってると悩むこともあって。最近ビートって一番可能性がありそうで一番可能性がなさそうな気がしてるんですよね。

橘:おおお。というと?

小島:ビートは他との相関じゃないですか。ボーカルがいたらボーカル、そことどういう位置にいるかっていうところで面白さが時代とともに変化してると思うんですよね。だからといって、やたら複雑なリズム構成とか、エクスペリメンタル系のビートにはグッと来なくて。ポップスの領域だと「ここで来てほしい」っていうポイントがあると思っていて。

橘:ありますね。

小島:そうなると工夫の場所ってその他の音との兼ね合いになってくるんです。だから先にビートだけ打ち込んでいくと違うというか。シンセアイデアとか、自分で歌ってみてビートっぽくしてみたりとか、そういうきっかけがあるとビートも作りやすくなるんです。あとビートを先に作ると、どうしても過多になっちゃう。ビートはあんまり要素がないものの方が面白いしかっこいいと思うんです。やたらあるよりは外しがあるというか。

橘:抜きの良さ。

小島:そうですね。来そうなところで来ないみたいな。それが10年代って感じがするし。

橘:あえて1拍目を抜くとかね。

小島:そうそう。いかにドロップ前で来そう感を出しておいて来ないか、とか。

橘:いいですよね。僕も最近そういう曲を作ってるところです。歌は自分で歌います?

小島:曲を書く時に歌うことはありますけど、あとは後ろのリフっぽい、サポートっぽいところは歌う時もあります。トラックの一部として。

レコーディングにおいて最も重要なのは“整理整頓”

橘:あと、コライトもよくやってるイメージですけど、海外のコライトが多い?

小島:そうですね。人と書く時は海外が多いです。日本でやってる人も少ないですし。この前も1カ月くらいコライトの旅でオランダ、アイルランド、パリに行きました。基本的にはヨーロッパが多いですね。まだアメリカはちょっと怖い(笑)。僕が行くのは北の方ですけど、ヨーロッパ(北欧)の人は日本人に近い感じがありますね。スウェーデン人とかすごいプライドが高い日本人みたいだし。日本人プラス自尊心みたいな(笑)。

橘:J-POPでもスウェーデンの人の曲は多いですよね。そういうことも関係してるんですかね?

小島:それは抜きにしても、スウェーデンのメロディは日本人は好きだと思いますね。

橘:今度一緒に連れてってくださいよ!

小島:いいですよ、行きましょう!

橘:コライトをやってると、人からアイデアをもらえるのがいいですよね。刺激が大事ですから。自分だけでずっとやってるとルーティーンができてきてしまうし。

小島:いろいろな経験はできますよね。前にオーストラリア人のインディーポップ系の人とやった時はドン引きするくらいリバーブをかけられたことがありました。「もっとリバーブ出せ!」って言われてギターに入れてたんですけど、こっちが心配になるくらいひたすらオーバーダブしまくってて……壮大な大地みたいな(笑)。

橘:それ使ったんですか?

小島:使いました。たしかにインディー感は出ましたけど。

橘:やりすぎる感が海外では大切だったりしますもんね。

小島:「ちょっと強すぎない?」と思っても意外とトラックに入ると抜けが良かったりするんです。

橘:「この曲にその音使う?」みたいなのがハマったりしますもんね。海外での曲作りは憧れます。海外といえば、個人的に忘れられないことがあって。今でもたまにあるんですけど、海外のトラックメイカーは秘密のなにかを使ってるみたいなことを言われていたの知りません?

小島:なんですかそれ?(笑)。

橘:とにかく海外の人の音がいい、日本のJ-POPと音が違う。これは秘密のなにかがあって、それでこの音ができてるみたいなことが言われている時があって。当時は「海外すげーな」って鵜呑みにして「じゃあこの音は日本では出せないのか」って思ってたんです。でも日本人でも近い音が出てきて、ここまでできたらできるんじゃないかと思っていろいろ勉強していったら、結果音作りの実力なんだということがわかりました。100歩譲って細かいところで言えば電圧の関係もあるんですけど、結果実力じゃないですか。あと耳の良さですよね。それを「魔法のなにかがある」って正当化してたんだなと思ってしまって……。ちょっと厳しい言い方ですけど。

小島:魔法論はめっちゃありますよね。海外魔法使い論(笑)。この人に頼んだらいい音になるということは置いておいても、ニューヨークでマスタリングしたら、ニューヨークの音になるみたいな幻想はありますよね。

橘:それが違うってことは声を大にして言いたいです。

小島:逆だと思いますよ。音のはじめの段階が一番重要で。

橘:ほんとそう。こんなこと言ったら申し訳ないんですけど、日本人の悪いところはミックスとかマスタリングで悪い音が良くなる感覚でいるんです。それはありえないことで。最初が一番いい音で悪くなっていくと考えないといけないので、アレンジの段階が一番肝心なのに。だからさっきのマスタリングの話じゃないですけど、アレンジで帯域が重なっていたらいい音になるわけがなくて。

小島:それは俺もめっちゃ言いたいんですよね。啓蒙思想はまったくないんですけど(笑)、唯一言いたいこととしては、キックの一番いい音はキックだけ鳴らした音ですから。

橘:(笑)。もはやそうだと思う。

小島:一番ローを出したければサイン波をずっと鳴らせば出ますからね。入れれば入れるほどどんどん埋もれていきますから。

橘:それを理解してない人がまだ多いんですよね……。

小島:それでローが足りないから最後にEQであげるとか……。

橘:ただぼやけるだけですからね。僕も人からよく曲をいただいていた時に「ミックスしたら良くなりますから」って言われたことがあって。でもアレンジの段階で悪いものはミックスしても良くならないわけで。

小島:わかります。

橘:だからミックスで良くしてもらおうと思うなということは常に思っていて。自分のアレンジの段階で良くしようという努力をしないと、その楽曲はいいものには絶対ならないんです。……こんなこと言ったら炎上しそうだなと思ってずっと言ってなかったんですけど、ついに言っちゃいました(笑)。

小島:(笑)。逆に日本のエンジニア陰謀論もありますよね。「俺らの音がずーんと来ないのは、最終段階でローが削られてるからだ。若い人の感覚で、ローを切るおじさんを倒そう」みたいな話を聞いたことがあって(笑)。例えば、海外のバンドは低音が鳴ってるのに、自分たちの音で同じように来ないのは誰かの陰謀だと。ギターとピアノが同時になにかやっていたりして、バンドはより帯域の概念が薄いので仕方のないことではあるんですけど。それなのに誰かが悪い、エンジニアが悪いっていうのはかわいそうだなと思って。この問題は縦軸と横軸、周波数帯の話なだけですから。

橘:周波数の整理です。整理整頓。だから部屋が散らかってるとダメかも(笑)。

小島:そこを突かれるとちょっと困りますね(笑)。

橘:究極、僕たちが言いたいのは、キックでいい音を出したかったらキックだけにしてほしいってことで。

小島:それはまじで言いたいです。それ以外はやめる。諦めてキックを出していきましょう。(後編に続く)

■Yaffle(小島裕規)

Tokyo Recordingsの設立メンバーの一人で、Capesonのプロデュース、柴咲コウ、水曜日のカンパネラ、上白石萌音、Charisma.com、SIRUP、iriらのアレンジや楽曲提供から CM、映画『ナラタージュ』などの音楽制作等、幅広く活躍する気鋭のソングライター/プロデューサー。

Yaffle 小島裕規 Twitter
Tokyo Recordingsオフィシャルサイト

■橘慶太(w-inds.)

1985年12月16日生まれ。福岡県出身。
3人組ダンスボーカルユニットw-inds.のメインボーカリストとして、2001年にシングル『Forever Memories』でデビュー。同年、第43回日本レコード大賞最優秀新人賞に輝く。その17年の活動において、いままでにw-inds.として12枚のオリジナルアルバムと40枚のシングルをリリース。
国内外でそのアーティスト性、パフォーマンス、そしてセールスは高く評価され、デビュー当初より日本のみならずアジア各国で数々の賞を受賞。その活躍は、台湾・香港・韓国・中国・ベトナム・タイ・マレーシアなど東南アジア全域に拡がっている。
2017年、「We Don't Need To Talk Anymore」からは、橘慶太が作詞・作曲・編曲をセルフプロデュースするなど、世界の音楽のトレンドをいち早く取り入れながら、グループ独自の音楽を追求し、常に進化を遂げている。

(構成=久蔵千恵/写真=下屋敷和文)

■w-inds.リリース情報
『w-inds. LIVE TOUR 2018 "100"』
2018年12月12日(水)発売

初回限定盤DVD(2枚組+2CD)¥5,926+税
特典映像:Documentary of LIVE TOUR 2018 “100” -Another Story-
特典CD:w-inds. LIVE TOUR 2018 "100" Live CD(2枚組)

Blu-ray(1枚組)¥5,926+税
特典映像:Documentary of LIVE TOUR 2018 "100"

DVD(2枚組)¥4,907+税
特典映像:Documentary of LIVE TOUR 2018 "100"

<収録楽曲>
M00. Introduction
M01. Bring back the summer
M02. In Love With The Music
M03. Show You Tonight
M04. All my love is here for you
M05. I missed you
M06. try your emotion
M07. 四季
M08. A Trip In My Hard Days
M09. Do Your Actions
M10. Celebration
M11. The Right Thing
M12. ORIGINAL LOVE
M13. In your warmth
M14. TOKYO
M15. 十六夜の月
M16. Long Road
M17. SUPER LOVER 〜I need you tonight〜
M18. We Don't Need To Talk Anymore
M19. Temporary
M20. The love
M21. Time Has Gone
M22. Come Back to Bed
M23. Stay Gold
M24. We Gotta Go
M25. Drive All Night
EN1. Dirty Talk
EN2. Sugar

w-inds. オフィシャルHP & MOBILE SITE

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